宇宙空間で「犯罪が発生したら…」犯人はどう裁かれる? 宇宙船“内外”でも異なる国際ルールに基づく法律の運用とは【弁護士解説】
2. 宇宙船の外(船外活動中)で犯罪が起こったとき
宇宙空間そのものは「無主地(どの国にも属さない場所)」とされています。しかし、宇宙飛行士は「送り出した国」や「登録国」の法的な管理下にあるという考え方が基本です。 たとえば日本人宇宙飛行士なら日本の刑法が適用される、アメリカ人ならアメリカの刑法が適用される、といった“属人主義”という仕組みが働きます。
3. 宇宙で犯罪が発生した場合の捜査はどうする?
(1) 初動対応 宇宙飛行士たちの中で上席の指揮官(船長やコマンダー)が、まずは状況を確認し、証拠をできる限り保全します。たとえば監視カメラやログの記録、犯行に使われた道具などをそのままにしておくなどです。 (2) 地上管制への報告 続いて、NASAやJAXAなど、それぞれの国の管制センターへ報告します。各国の法務担当や宇宙機関同士で情報を共有し、「だれが捜査主体になるのか」「どの法律で裁くのか」といったことを協議します。 (3) 本格的な捜査は地球帰還後 宇宙では、警察のような捜査機関がすぐに駆けつけるわけにはいきませんし、現場検証も難しいです。 そのため、本格的な取り調べや裁判は、犯人とされるクルーが地球へ帰還した後に行われることが一般的です。
4. 弁護活動はどうなるの?
宇宙空間に“弁護士事務所”はない 現在、宇宙空間には法廷はもちろん、弁護士事務所もありません。ですから、もし逮捕や訴追が行われる場合でも、基本的には地球に帰還してから、改めて自国または関係国の法律に基づいて弁護士を探し、弁護活動を行うことになります。 遠隔での弁護準備 将来的には、長期の月面滞在や火星探査など、地球にすぐ戻れないミッションも想定されています。その場合には、地球との通信で弁護士とやり取りをしながら、ある程度の法的手続きを進める可能性もあります。しかし、まだ前例がないため、どのような形で弁護活動が行われるかは今後の課題といえます。
5. 宇宙犯罪をめぐる国際ルール
現在の枠組み ・宇宙条約(1967年発効) 宇宙空間の平和利用など大まかな原則を定めた条約ですが、具体的な刑法等の適用ルールまでは書かれていません。 ・宇宙物体登録条約(1976年発効) 宇宙船や衛星といった「宇宙物体」をどの国が登録し、どの国が管理権を持つかを定める条約です。 ・国際宇宙ステーション政府間協定(IGA、2001年発効) ISSに参加する国々(アメリカ、ロシア、日本、カナダ、欧州各国)が結んだ協定で、刑事管轄の取り扱いについても比較的詳しく決めています。 具体的な事例 2019年頃、NASAの宇宙飛行士がISS滞在中に、元パートナーの銀行口座へ不正アクセスしたのでは? という疑惑が報じられました。結果的には犯罪として立件されませんでしたが、「宇宙での刑事管轄はどうなるのか?」と注目を集めるきっかけになりました。 今後の議論 ・COPUOS(国連宇宙空間平和利用委員会) などで、宇宙活動における国際ルールの整備が継続的に議論されています。 ・これから民間の宇宙旅行や、月・火星に基地をつくるなどの計画が進むにつれ、「誰が、どの国の法律で裁くのか?」という問題がより一層クローズアップされるでしょう。 ・Artemis Accords(アルテミス合意) など、新しい取り決めの枠組みも登場してきていますが、いまのところ刑事法をきちんと定めるほどのものではありません。