史上最年少全日本柔道出場の斉藤ジュニアが見せた“最強遺伝子”の片鱗
全日本柔道選手権が29日、東京・九段下の日本武道館で行われ、100キロ級から挑戦したウルフ・アロン(21、了徳寺学園職員)が初優勝を飾ったが、注目は17歳と52日で史上最年少出場を果たしたロス、ソウル五輪95キロ超級金メダリスト、故・斉藤仁氏の次男、立(国士館高3年)の16強進出の大健闘だった。左手首を痛め、乱取りを2週間前に再開したばかりの状況で挑み、7年前の全日本覇者で今大会の決勝まで行った“業師”加藤博剛(33、千葉県警)に寝技で仕留められたが会場を大きく沸かせた。190センチ、155キロのサイズに加え、その性格も父親同様に豪快で愛されるキャラ。東京五輪出場は厳しくなったが、日本の重量級界の未来を背負う大器が出現した。
父が死闘を演じた舞台でベスト16進出
日本武道館で行われる全日本選手権は、4年前に54歳で他界した偉大なる父が、9連覇を果たした山下泰裕との死闘を繰り広げた舞台だ。昭和最後となる1988年の大会を制している。そして、その“最強遺伝子”を引き継ぐ次男が平成最後の“聖地”に立った。 開会式で畳に上がり名前がコールされ、深々と下げた頭を上げた瞬間、何かが胸の中で弾けたという。 「なにかがバッーと弾けた。体の中で光が広がったみたい。中心からぶわっと。すげえな。これが柔道選手権か。勝てば(会場が)沸くやろう。楽しみやな」 浪速っ子らしく面白おかしく擬音で表現。つまりアドレナリンが全身を駆け巡ったのである。それは「初めての経験」だった。 これまでも武道館で試合をしたことがあるが、試合場がたったひとつで八角形に囲まれた観客席から視線を一身に浴びる風景は違ったという。これが父が戦い、優勝した全日本なのだ。 「さあ、来い!」と両手を高く掲げてから組手に入る姿も父の姿に瓜二つ。それだけで会場がどっと沸く。 1回戦では、同じく初出場の加藤大志(27、北海道警察)に積極的に仕掛けて指導を取ると豪快な大内刈りで倒して1本勝ち。続く2回戦は、193センチ、140キロと体格のある黒岩貴信(26、日本製鉄)が相手だったが、臆することなく攻めた。しっかりと引手を使い、左足をねじこんで、最初に指導を取ると、キレのある大内刈りから袈裟固めに抑え込んでの合わせ技1本。そのパワーはワールドクラス。外連味のある勝ちっぷりでベスト16へ駒を進めた。 3回戦の相手は今大会最年長で11度出場を誇る加藤。90キロ級が主戦場だが、寝技や巴投げを得意としており大きい相手との戦いを知り尽くしている“曲者”だ。 斉藤は、小内巻き込みでバランスを崩され有効をとられた。 続けて「気をつけろと言われていた。想定内。でも、むちゃくちゃうまかった」という寝技に引き込まれ、関節技の脇固めで腕を決められかけた。 「普通は抜かないといけないらしいんですが、知識がなかった」 まだ高校3年生。レベルの高い寝技、関節を学んでいない。しかも、3月に左手首を痛めた影響があり寝技の練習に時間も割けなかった。斉藤は、ただ本能で、なんと、でんぐり返しをして、その関節技を切った。だが、セオリー通りの逃げ方ではなかったため、そのまま後ろ袈裟固めに抑え込まれた。巨体をバタバタさせて抵抗したが万事休す。 「寝技、関節がまったくわかんなくて。前転したら、とれるんちゃうかと思ったけれど、そのまま抑えられて。しょうむないことをしてしまった。やられました」 これが百戦錬磨のベテランの洗礼。 斉藤ジュニアの全日本の挑戦はここで終焉となった。