暴力パワハラ問題根絶へ「指導者もアップデート」を 日仏の違い、柔道五輪金メダリスト谷本歩実さん
日本スポーツ協会や日本オリンピック委員会(JOC)が連携し、スポーツ界の暴力や暴言、ハラスメント行為の撲滅を目指す「NO! スポハラ(スポーツ・ハラスメント)」活動を開始して1年が過ぎた。実行委員会のメンバーを務めた柔道女子五輪金メダリストの谷本歩実さん(42)は現役引退後、パリに留学した経験も踏まえ「指導者のアップデートも必要」と強調する。このほど共同通信のインタビューに応じ、日本とフランスの指導を取り巻く違いやスポハラ根絶への思いを語った。(聞き手は共同通信=七野嘉昭、田村崇仁) 【写真】指導者の暴力、パワハラ、性虐待も… 人権団体の調査で判明した実態
▽選手のSOS ―昨年4月から1年間の活動での現状は。 「NO!スポハラを口にするのはすごく勇気がいる。日本の場合はなかなか口に出しづらい環境なのも原因の一つ。そこがまず一つハードルだと感じた。そうした中で選手だけでなく、指導者や保護者からも話を聞き、ハラスメントが起きないための予防が一番重要だと気づいた。声を上げたことで、選手に選ばれないのでは、という不安は誰もがある。そこをいかにクリアにしていくか。何がグッドで何がバッドかというのをとにかくアップデートしていくことが大切ではないか。声を上げることが抑止力にもつながる」 ―2013年に発覚した柔道女子日本代表の暴力指導問題。15人が声を上げた選手たちの勇気ある行動を振り返ると。 「当時は声を上げる選択肢がなかった。だからメディアで一報を知り、自分の中でも驚きだった。10年以上たった今でも、関係者は心に深い傷を負っている。だからこそ、起こらないように予防することが大事だ。選手のSOSに気づける環境づくりが必須」 ▽仏の指導は役割分担
―谷本さん自身、現役時代はどうだった。 「『ふてほど(不適切にもほどがある!)』ですよね(笑)。あのドラマを見て、こんなに変わったんだなと思う。自分たちもそれが当然なんだと思ってずっと現役中はやっていたので、視野を広げないといけない。指導者になってから現場の環境は、時代の在り方とともに毎日、毎日変わる。なのですごく自分自身をアップデートしていかないといけない。そんなプレッシャーがあった」 【不適切にもほどがある!】コンプライアンス意識の低かった1986年から2024年にタイムスリップした〝昭和のおじさん〟の体育教師(阿部サダヲ)が主人公の、TBS系ドラマ。 ―日本とフランスで指導の違いは。 「フランスに行って、小さい子どもたちから80歳くらいのおじいちゃん、おばあちゃんまで指導させてもらうなかで、根本的に日本との違いというのは感じた。例えば選手に触れること一つにしても、法律でそれが指導なのか何なのか、その選手との距離も決まっている。10年前の日本の指導はアメとムチを使い分けて公私とも全てをみる感じ。厳しく指導もするし、友達のような時間も過ごす。そこに心理的混乱が生まれる。一方でフランスは役割が細かく分かれている。コーチや組織を運営するスタッフ、トレーナーやカウンセラーもいる。きちんと役割があって必要以上に踏み込まないし、選手との適度な距離感がある」