百貨店のケーキ宅配、温度管理は甘くない…専用ボックスのヒントは意外なところに
阪急阪神百貨店が2019年に始めた「ケーキ宅配」は、崩れやすいためタブー視されてきたホールケーキの宅配サービスを他社に先駆けて構築し、デパ地下の来店客を持ち帰りのストレスから解放した。品ぞろえや配送地域を拡大し、年間を通して幅広い家庭や企業の「ハレの日」需要に応え、今年5月には累計販売数が10万台を超えた。(升田祥太朗) 【画像】ケーキ宅配を担当する(左から)橋本さん、中村さん、古賀さん(大阪市北区で)=枡田直也撮影
崩れてはブランドに傷
数あるデパ地下スイーツの中でも、華やかで満足感の大きいホールケーキの人気は根強い。阪急梅田本店(大阪市北区)では、クリスマスのピーク時に1日1万台近く売れる。 一方、混雑した売り場で購入し、手に提げて持ち帰る負担は大きい。食品売り場の経験が長い新規サービス事業部ゼネラルマネジャーの橋本政人(47)は「以前から『ケーキを自宅に届けてほしい』『遠方に住む親族のプレゼントに贈りたい』という要望は多かった」と語る。
しかし、きめ細かい温度管理が必要なうえ、軟らかく崩れやすいケーキを運ぶのは手間とコストがかかる。配送時に崩れてしまい、苦情が相次ぐ恐れがある。百貨店のブランドを傷つけるリスクもあり、「甘さ」は許されない。社内で本格的に取り組む機運は高まらなかった。
冷蔵庫付き車両、出前のバイク…
17年、社内に食品分野の新規事業開発の部署が新設され、翌年にメンバーの1人として橋本に白羽の矢が立った。橋本の頭にまず浮かんだのが、ケーキ宅配だった。商品を供給する取引先にもヒアリングをして、一定の需要があると確信した。 手始めに冷蔵庫付きの車両を手配して実験したが、費用の高さがネックとなり断念。そばの出前用バイクも検討したが、配送効率などの面から決め手を欠いた。 半年ほど試行錯誤が続いたある日、エレベーターに乗った際、居合わせた医療スタッフの持つ血液用の輸送ボックスを目にした。「血液は厳重な低温管理が必要。使えるんちゃうか」とひらめいた。 すぐにボックスに記載のあったメーカーに電話し、「ケーキ用に配送ボックスを作ってほしい」と頭を下げた。3か月ほどで専用ボックスが完成。資材業者と連携し、崩れないよう運ぶための緩衝材の開発にもメドがついた。「トラブルが起きたら誰が責任を取るのか」といった反対意見もあったが、橋本は「『これだけやったから大丈夫』と言えるまで実験した」と振り返る。