公害工場からの大気汚染…静岡と同じように汚染が発覚したオランダでは、なぜこうも対応が違うのか
それを裏付けるような研究もある。アムステルダムにある大学研究者による、草や葉などの植物についての調査だ。 対象となったのは、有害性が指摘されて使用禁止となったPFOAと、代わりに使われるようになったGenXの2物質。後者もやはり有害性が認められ、アメリカでは今年4月から規制対象の一つに指定されている。 調査の結果、ドルドレヒト工場から北東3キロ以内にあるプラタナスやシラカバのほか、85キロ離れたところでも草木から微量ながら検出されたという。工場からの距離が遠ざかるにつれて濃度が下がっていた。 また、別の研究でも、PFOAが大気によって拡散され、土壌や地下水に含まれた後、草や木の葉に移行している可能性が高いことが示されたという。
オランダでは国が動いたが、日本では……
こうした一連の結果を受けて、オランダの食品・消費者製品安全庁(NVWA)は、工場から半径1キロ以内で栽培された作物について、 <消費は適度にする必要がある> つまり、慎重に摂取すべきだと注意喚起したというのだ。 オランダでは、2016年に住民2人の血液から高濃度のPFOAが検出されたことを受けて、国務大臣が取り上げるなどして社会的に注目を集めた。地元自治体はPFOAやGenXの排出量や削減実績などを報告するようケマーズに求め、それ以外のPFASについても監視を続ける。そのうえ、2023年には損害賠償などを求める訴えも起こした。 一方、日本では、汚染を引き起こした企業の責任は事実上、問われないままだ。 清水工場のある静岡市は、工場に隣接して市が所有する三保ポンプ場の汚染除去をめぐり、三井・ケマーズフロロプロダクツ(MCF)と密室で協議を重ねている。MCFが取り組むという汚染除去について、交渉過程などの詳細は明らかにしない。そのうえ、地下水や土壌、大気による汚染については不問にしている。 静岡市議会もMCFに議会や記者会見での説明を求めるなどの動きはない。 国の腰はさらに重い。 SlowNewsの報道で、清水工場の下請け労働者の深刻な体内汚染が明らかになったものの、厚労省は動かない。労働安全衛生法は「厚労大臣は(略)労働者の従事する作業と労働者の疾病との相関関係をは握するため必要があると認めるときは、疫学的調査その他の調査を行うことができる」(108条)と定めているが、「過去に調べた事例はない」。 環境省も傍観を決め込んでいる。 汚染した企業が当然、責任を問われるアメリカやオランダ。企業が口をつぐみ、それが許される日本。それどころか、行政は健康への影響さえ調べようとしない。 歴然とした「いのちの格差」が目の前にある。 現在配信中のスローニュースでは、静岡市の清水工場から離れた場所でも大気汚染が引き金と見られる汚染が確認されたことや、大気汚染に関するデータが、あまりの高濃度のために封印されてしまったことなどを独自に報じている。
諸永裕司