「介護の不安」で81歳妻を絞殺した87歳夫に懲役8年 「自分が残った方が子供たちに迷惑をかけない」58年間連れ添った妻を殺めた“身勝手すぎる理由”
長男は数カ月後に仕事を辞め、両親の介護に専念する予定だった
事実関係に争いはなく争点は量刑となった。弁護側は3人の子供の陳述書を読み上げたが、3人とも寛大な処分を求める内容だった。 子供たちによれば、昔から夫婦仲は良くなかったという。吉田がせっかちで几帳面な性格であるのに対し、京子さんはのんびり屋でずぼら。次男によれば「母がおかしなことばかり言う」ので毎日のように喧嘩は絶えなかったという。だが、歳を取るうちに口論は減っていったという。 長男によれば、吉田は事件2カ月前に甥を亡くしてから元気がなくなり「家を売って夫婦で老人ホームに入りたい」と相談もされていた。長男は来年3月には自分が仕事を辞めて2人の面倒を見ると伝えていた。 だが吉田の様子はどんどんおかしくなっていき、事件直前には、目が虚ろな状態で体を上下に動かす挙動不審な動作をしたり、「次男から殺されるかもしれない」と根拠のない不安を口にしていたという。 同居していなかった長女は「突発的なことで起きた事件だと思う。どうしてこうなる前に家族で話し合って止めることができなかったのか。父のことを責めることもできず、許すこともできず、複雑な心境です」と訴えた。
義弟は「責める気持ちにはなれない」
弁護人は証人として2人の親族を呼んだ。一人は吉田から見れば義弟にあたる京子さんの弟(77)だった。 義弟はこれまで親族の集まりで吉田夫妻と年に数回交流があったが、「夫婦仲は良さげに見えた」「妹は転倒後に足を悪くした後、春男さんが『買い物や病院の送り迎えをしてくれて、ありがたい』と感謝していた」と証言。 拘置所にも数回面会に通ったが「春男さんのことを責める気持ちにはなれない」と語りこう訴えた。 「長いこと妹がお世話になった。これまで妹を献身的に支えていただいてありがたく申し訳ないという気持ちの方が強い。私の兄弟も同じ気持ちです。できるだけ短い刑にしていただきたい」
京子さんの
その後長男も証言台に立ってこう願い出た。 「私は父母の介護をするために退職しましたが、2人ともいなくなってしまいました。父にはなるべく早く出られる刑にしていただき、1カ月でも2カ月でも長く介護して看取らせてください」 全ての遺族が寛大な刑を望む展開に、法廷内は吉田への同情に傾いたように見えた。だが被告人質問が始まると空気は徐々に変わっていった。 吉田は「自分が残った方が子供たちに迷惑をかけない」と考えて京子さんに手をかけたと語った。だが直前までの生活実態をよく聞けば、京子さんはまだ介護を必要としているような状態ではなく、吉田が過度な負担を強いられていたとは言えない状況だった。 京子さんの”無念”を代弁しようとしたのは、20代と思しき若き検察官2人だった。 後編【「介護の不安」で58年間連れ添った妻を絞殺した87歳夫に懲役8年の実刑判決 法廷で「涙ひとつ見せなかった被告」に裁判長が放った言葉】では、被告人質問の詳細、吉田に懲役12年を求刑した検察官の論告、そして判決で裁判長が吉田に向けた「厳しい言葉」について報じている。(文中呼称略) デイリー新潮編集部
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