人間の力ってすごい、加藤和樹が「奇跡の舞台」で表現したいこと
ミュージカルの舞台のみならず、音楽活動やアニメ・ゲームの声優と、マルチに活躍している俳優・加藤和樹。最新出演舞台『カム フロム アウェイ』は、2001年にアメリカを襲った同時多発テロ「9.11」の悲劇の裏で起こっていた、奇跡の実話を元にしたミュージカルだ。 【写真】連日大盛況、豪華すぎるメンバーが集う「劇中シーン」 日本ミュージカル界を代表する、主役級の俳優が12人も揃うだけでも、見応えは保証付き。加藤にその見どころと、この舞台を通じて個人的に感じたことなどを、大阪公演初日直前に聞いてきた。 取材・文/吉永美和子 写真/木村正史
◆「演出家からは『お芝居をしないで』」
──この物語は、テロの影響で目的地に行けなくなった38機の飛行機を受け入れた、カナダの小さな島・ニューファンドランドを舞台に、乗客と島民たちが交流する姿を描いた群像劇です。特に主役がいるわけではなく、役者が1人10役近くを演じるという異色の舞台ですね。 ブロードウェイで上演されたときから気になっていて、映像で初めて観たときに「すごい作品だなあ」と思いました。椅子と机しかないセットのなかで役者とバンドが入り乱れて、シーンが目まぐるしく変わっていく。そこには役者の力というか、人が生み出すエネルギーを感じたんです。「これ、本当に役者さん大変だな」と思いながら「でもこれ、(自分が)やるんだよなあ」って(笑)。案の定、稽古はすごく大変でした。 ──たしかに、複数の飛行機の乗客を演じ分けるとか、島民が次の瞬間には異国の人になってたりとか、演じながら混乱するんじゃないか? と思いますが。 たとえば飛行機ごとに、ちょっと偉そうとか、不安そうとか、お腹が痛いとか(笑)、自分のキャラクターをどんどん変えていくんですが、もう自然現象ぐらいの感覚でチェンジしています。照明が変わってそのシーンになったら、なにも考えなくてもその役に変わるという。モブ的な役に関しては、特に演出はなく「ご自由にどうぞ」みたいな感じだったので、みんないろいろ考えて作ったと思います。 ──ちなみにこのインタビューが公開される頃には、すでに公演が始まっています。コロコロと変わる役柄や場面に、観客が迷わないためのアドバイスがあれば教えてください。 この実話を知っているのかどうか、結構重要な点なんです。だから前情報を一切入れずに見るよりも、9.11のこととか、ニューファンドランドがどういう島なのかを頭に入れておく方がいいと思います。そうすると「あ、今はこういう場所なんだな」とか「だからこの島の人たちは、こんなに明るいんだ」ということが、スッと入りやすくなるはずです。 ──本作はそうそうたる顔ぶれの俳優がそろっていますが、みなさんのなかで「これを大切にしよう」と話し合ったことなどはありますか? 演出のクリス(クリストファー・アシュリー)も言ってたんですけど「お芝居をしない」ということ。お客さんも一緒に考えてもらうために、セリフを表現しようとせず、起こった出来事をただ伝えてください・・・と、ずっと言われてました。それって役者としては、正直ちょっと物足りないんですよ。だから「どういうことだろう?」って、稽古中は思っていました。 ──俳優の役割とは矛盾してるように思える指示ですからね。実際に東京で上演したときに、その意味はわかりましたか? 「こういうことか!」って、すごく思いました(笑)。客席にただ(セリフを)投げかけることで、お客さんがそれを感じて、飲み込んで、感動するのが伝わりましたね。お客さんは同じ飛行機に乗ってきた人であり、我々の共演者ということなんだ、と。これほどまでにお客さんを巻き込んで、共有し合う作品というのは、僕のなかではLIVEに近いですね。