「鬼滅の刃」“海賊版”DVD販売で「故意認められず」無罪判決に…なぜおとがめなし?
弁護士も「注目すべき裁判例」
著作権問題にも詳しい荒木謙人弁護士は、「注目すべき裁判例」と感想を述べた。その理由として次のように解説した。 「刑法第38条1項は『罪を犯す意思がない行為は、罰しない。』と定められています。そのため、罪を犯す意思、すなわち『故意』が認められる場合のみ処罰されることになります。 そして、故意は、未必の故意がある場合には認められており、未必の故意とは、犯罪事実実現の可能性を認識して、それを認容していた場合をいいます。 今回の事件にあてはめると、マレーシアの仕入れ先から購入する『鬼滅の刃』のDVDが、著作権者の許諾なく複製されたものであるかもしれないが、それでよいと考えていた場合には、未必の故意が認められ、処罰されることになります」 全く何の商売経験もない素人の一個人の行為なら、百歩譲って理解できるとしても、日本でDVDを販売しようとする事業者が、海外の事業者が扱うDVDを言われるまま正規品と信じ、輸入しようとすることはあり得るのか…。 「本件では仕入れ先がどのような者であったのか不明ですが、仕入れ先が信用に値すると評価できるのであれば、その担当者の発言を信じることについて、一定程度、合理性が認められます。一般的には、仕入れ先が継続的に正規品のDVDを輸出していたり、日本における他の事業者も同様の取引をしていたりするような場合は、信用に値すると評価できます」(荒木弁護士) 刑事訴訟では「疑わしきは罰せず」として、犯罪事実がはっきり証明されないときは被告人の利益になるように決定すべきであるという原則がある。それにしても…とこのケースでは疑念がぬぐえない。
なぜ”無罪”判決となったのか
荒木弁護士は、無罪となった背景を次のように推察する。 「報道の内容を見る限りですが、輸入したDVDが正規品と全く変わらない見た目であったり、販売価格が不自然に安い金額での取引ではなかったりといった事情を考慮すれば、裁判官としては、被告人は海賊版だと思って購入していないと判断して、無罪判決になったのだと考えられます」 実際、見た目は不明だが、2万円で販売したという値段については、国内ネット通販で購入できる北米版の正規品と大きく変わらない。その意味では、不当に安く仕入れ、国内で利益を得ようとしたという悪質性は伺われない。