銀座『黒革の手帖』のリアル 第3話 半狂乱のバブル期、この街で生き延びて
大手企業に勤めているから、すばらしい人とは限らない 一流の客と二流の客を分けるもの
『黒革の手帖』では、上星ゼミナールの理事長・橋田常雄(高嶋政伸)が財力を駆使して、なんとか元子ママ(武井咲)をモノにしようと執拗に迫る場面がある。実際に高価な贈り物などで意中のママと関係を結ぼうとする客もいるようだ。 「もちろんあります。『省』のつくおかたいお勤めの方がね、いつもひょうきんな方でよいお酒を飲む方なんですよ。でもね、私が40代のころ、ほかのお客さまから見えないところで、いつになく真剣な顔で『いや僕ね、一生に一度しか言わないから』って。なあに?って言ったらね、『ママさ、一度だけつきあってちょうだい。100万でいいかな』って。度肝を抜かれてね。私は『バカなこと言ってないの。もう長い付き合いであれだけど、どうせ引っ掛けるならもっと若い子にしなさい』って、あははって笑って。長年おつき合いのあるお客様でも、たまにそんなことを急におっしゃることもあるんですよ」 とんでもない客もいれば、上客もいる。一流の客と二流の客は、どこで分かれるのか。 「大手にお勤めだからすばらしいかって言ったら、そういう問題じゃない。やっぱり人柄、人間性ですよ。あるとき、大きな制作会社の役員さん、うちへよく見えていたんですけど、秘書の方から電話がきて、『○月○日付の飲食代ですが、当役員はその日出張したから行っているはずがないんです。本人も、おかしいんじゃないかと言ってます』と。でもね、はっきり覚えているんです。7人でみえてね。私は架空の伝票なんか作ってませんと申し上げました。信用問題ですからね。一緒に来られた方の特徴も説明して、もしなんでしたら出るところへ出ても結構ですって申し上げたの。そうしたら30分後に電話がきまして、あらためて請求書送ってくださいって」 その後、すぐにお金を振り込んできたという。 「だったら最初からバカなこと言わないで、って。それこそ『黒革の手帖』じゃないんですから、そんな無茶なことしません。私たちも信用問題ですから。そんなふうに大手の方でも割といい加減な方もいるし、それから、おれはどこそこの誰々だ、なんて、偉そうな態度をとる嫌なお客さんもいるわけですよ。だけど、大手の方でも本当にまわりのお客さまにも気を遣って遊ばれる方もいますし。最終的には人ですね、本当に」