新国立劇場『ピローマン』出演者座談会「観終わった後に誰かと語り合いたくなる作品」
――那須さん、斉藤さん、成河さんは早い時期から小川絵梨子さんとお仕事なさっています。 那須 確かにたくさんご一緒していると思います。7,8作品は組ませてもらっているんじゃないかな。 成河 那須さんは『ピローマン』と同じマクドナー作品だと『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』(2017)? 僕は初めて絵梨子さんの演出を受けたのがやはりマクドナーの『スポケーンの左手』(2015)。今回で4作品目か。 那須 そう、でもお付き合いの長さでいうと直ちゃん(斉藤さん)じゃない? 斉藤 そうかも。中嶋しゅうさんから「お前ら気が合うから」って紹介されて、初対面が2010年大みそかの下北沢。翌年にピランデッロの短編作品集の舞台で初めて絵梨子さんの演出を受けました。その千秋楽に「長い付き合いになると思うけどよろしくね」ってふと口から出て、今、本当にその通りになったなあ、と。 ――木村さん、大滝さん、松田さんは小川さん演出作へのご出演がそれぞれ2度目ですね。 松田 僕はさいたまネクスト・シアターで演劇をやっていたのですが、蜷川幸雄さんと小川さんの方法論では違うところもあると感じています。火にたとえると蜷川さんは赤い炎で小川さんは青い炎というイメージ。まあ、赤でも青でもその炎で僕が焼かれるのは同じですけど(笑)。 木村 絵梨子さんが演出家として俳優に伝えてくれることってとても理解しやすいんです。スっと肚に落ちてくる。 成河 それは絵梨子さんの中でブレが一切ないからじゃないかな。演劇でもっとも大切なのはテキスト(台本)であり、演劇=俳優芸術であるという軸が以前からまったくブレていない。俳優の演技がそのテキストにおいて適正なのかどうかを見極める力も突出しているし。 大滝 今作での絵梨子さんはどこか無邪気で俳優の自由にまかせる間口の広さもありつつ、そのストライクゾーンの判定はとても厳しいという印象です。自分が出演しない場面の稽古を見ていると、絵梨子さんの判定がストライクだったのかボールなのかがわからなくなることもあり、佐代ちゃんに「今、どこを見分けたの?」って聞くと、彼女が「(小川さんには)わかるのよ」って小声で教えてくれたりして。 成河 演出家としてとても正確で繊細なセンサーをお持ちですよね。 大滝 そう!たとえば誰かがふと自分のことだけを考えていたり、内心が台本から逸脱したときはすぐ気づかれる。これは俳優にとって怖いことですよ。 ――『ピローマン』はほとんどの場面が少人数の濃密な会話で紡がれていきます。ハードなこともあるお稽古だと思うのですが、日常との気持ちの切替えなどどうなさっていますか? 松田 気分転換の方法はいろいろありますが、基本は普通の生活をすることですね、ご飯を食べに行ったり家族と遊んだり。僕は稽古中に100%集中して、家では台本も開かないです。 成河 そうなの? 松田 家で台本を読むとどうしても「このせりふ、こういう風に言ってみようかな」と“相手役が介在しない手札”を増やしてしまうんです。それは良くないと思っていて。 成河 真面目なんだ! 斉藤 僕も特に意識はしないかな……自宅が海の近くで稽古場から遠いので、帰り道で自然に日常に戻っていく感じです。 松田 稽古中、海には入りました? 斉藤 自転車で海まで行ったけど、まだ浮かんではいないね。 那須 海、いいなあ!私はBTSへの推し活です。コロナ禍にハマって、了くんと共演した『レオポルトシュタット』(2022)の現場ではキャストの皆とも一緒に踊りましたよ(笑)。だから今の気分転換はYouTubeでBTSの動画を見ることかな。 大滝 僕は野菜を作っているので、たまに畑に行くんです。今年の夏は暑かったから水をやるのが大変でしたけど。 木村 僕……まだ気分転換する余裕がないです(笑)。成河くんは? 松田 気になる!僕のイメージだとドライブだけど。 成河 確かに、車の中は1人で何か考えるのにいいからね。でも、多分、僕は稽古場にいる時が一番救われる感じがする。 那須 え、どういうこと? 成河 どこか演劇にしがみついているのでしょうね。生きていくなかで他者と関わるのはツラいことだけど、僕にとっての稽古場や劇場はそのツラさを反転させられる場所なんですよ。他者と関わるツラさを反転させられる演劇に携わって生きていくかor dieか、みたいな。