新国立劇場『ピローマン』出演者座談会「観終わった後に誰かと語り合いたくなる作品」
架空の独裁国家で「ある事件」が起き、ふたりの刑事・トゥポルスキとアリエルが作家のカトゥリアンを取り調べている。事件の内容がカトゥリアンが書いた物語と酷似していることから彼の犯行を疑っているのだ。さらに隣室にはカトゥリアンの兄・ミハエルも連行されており、刑事たちはさまざまな手を使って自白を引き出そうとする。次第に明らかになる兄弟の凄惨な過去。そして物語と事件との本当の関係とはーー。 【全ての写真】“演劇トーク”を繰り広げた新国立劇場『ピローマン』出演者6人 イギリスの劇作家、マーティン・マクドナーの代表作のひとつ『ピローマン』が小川絵梨子芸術監督の演出により、新国立劇場・小劇場にて上演される。稽古も佳境に差し掛かるなか、本作の出演者6人=成河、木村了、斉藤直樹、松田慎也、大滝寛、那須佐代子が“演劇トーク”を繰り広げた。 ――昨日、初めて粗い形で全場面を通されたそうですが、そのご感想からうかがえますか? 成河 僕たちはそれを“ガッチャンコ”と呼んでいますが、途中で止まってもいいからまずはやってみようという共通認識のもとで場面を繋げました。僕が演じるカトゥリアンはほぼ出ずっぱりなので、いっぱい喋ったな、と(笑)。 木村 僕は稽古に参加して8日目ということもありとにかく必死でした。 成河 稽古8日で“ガッチャンコ”?通常はあり得ないよ! 木村 もうね、最初のシーンから面白すぎてこのまま出ないで帰りたいと思ったくらい(笑)。 ――大滝さんと那須さんはおもに兄弟の父母役を、斉藤さんと松田さんは兄弟を取り調べるうちに自身の内面も顕在化する刑事を担われます。 那須 昨日やってみて、熱量が凄い芝居だとあらためて感じました。カトゥリアンが紡いだ物語の中では酷いこともたくさん起きるけれど、作品全体の着地点はどこかあたたかいんです。本当によくできた戯曲だと思いますが、役者はとっても大変(笑)。でもその大変さがあるからこそ、面白い作品になるんですよね。 大滝 成河くんの体力と持久力、精神力に脱帽しました。大変な場面が続くから同じシーンに出ていても彼の息が荒いのがわかってね。今回、僕と佐代ちゃん(那須さん)は稽古を見ている時間が長いぶん観客のような視点でいる時もあり、冒頭の刑事ふたりによる取り調べシーンなんて、まるでサスペンスのようだとドキドキしましたよ。 斉藤 僕は11年前にも小川絵梨子さんの演出で刑事・トゥポルスキを演じているのですが、過去にやった役だからこそ、以前の芝居を忘れないといけない。絵梨子さんの演出も違うし、共演者も違うわけですから。けど、稽古中にふと以前の感覚やせりふが降りてきそうになることもあり、同じ役を同じ演出家のもとで演じる上での難しさも実感していますね。 松田 僕、このとてつもない俳優陣の中に居させてもらうの超イヤなんですよ(笑)。ここでは(『ハリー・ポッターと呪いの子』ドラコ役の)“魔法”も使えないですから。昨日は同じ場面に出ている皆さんに引っ張ってもらいながら何とかついていきました。とにかくめちゃくちゃ面白い作品だと思います。 成河 (小川)絵梨子さんカンパニーは毎回高みを目指すので、昨日の稽古でも変に完成形に向かって急ぐのではなく、ある種のブレーキをかけながらギリギリまで遠回りすることを意識しました。自分にとってはハイスピードで行くよりそっちの方が難しかったりもするのですが。 ――木村さんは今回、作家・カトゥリアンの兄、ミハエル役として急遽カンパニーへの参加が決まりました。お話があった時にどう思われたか、率直なところをお聞かせください。 木村 じつは僕、しばらく舞台の仕事を休もうと思っていたんです。2022年に絵梨子さんとご一緒した『レオポルトシュタット』をはじめ4作品も立て続けにやらせていただいて、自分の中では次の舞台まで少し間を空けるつもりでした。ただ事務所には「もし、小川絵梨子さん演出作品のオファーがあったら、それは絶対にやる」と伝えていたんです。それで新しく担当になったマネージャーにもそのことを話した4日後に『ピローマン』の件で連絡があって。 那須 えっ、凄い! 松田 うわあ! 木村 だから絵梨子さんとプロデューサーさんから「助けて」って連絡をいただいたとき、すぐに「いいよ」ってお返事をしていました。その時点で『ピローマン』がどんなストーリーで、ミハエルがどんな役なのかまったく知らなかったんですけど、共演者も素敵な方ばかりだし、きっと自分はそんなに大変ではないだろうなと思って。 成河 そうか、台本を読む前だもんね(笑)。 木村 そうなんですよ。その翌日にプロデューサーさんが事務所まで来てくれて、夜に初めて台本を読んで……あまりの内容の濃さと責任の重さに吐きそうになって途中で一旦、パタンと台本を閉じました(笑)。でも、これはもう運命なんだと今は思っています。2年、間が空いたことで絵梨子さんの言葉をすぐキャッチできないときもありますが、成河くんがいつも優しく「ゆっくりでいいよ」と言ってくれるのであせらず進んでいければ、と。