1個3500円!「生命の根源は消化管」と語るがん専門医は、なぜヨーグルトを作ったのか?──連載:教えて!GQドクター
1個3500円、高額な理由
──それにしても、1個3500円はかなり高額な印象です。 家庭用マシンでヨーグルトを作っている人はいらっしゃいますが、本当に効果のあるものを作ろうとすると難しいんです。たとえば「ビオフェルミン」など整腸剤として処方されている薬の大半は乳酸菌なんです。 私が製品化したヨーグルトは、スタータと呼ばれる基本の2種の乳酸菌に加え、3種の医療用乳酸菌と糖化菌を配合しています。工場は医療現場と同レベルの衛生管理で、発酵にはプログラミングされた厳重な温度管理も不可欠です。ですから、どうしてもコストがかかる。それでも私が有利だったのは、消化器の専門医だったこと。製薬会社に片っ端から声をかけることができるのは大きなメリットでした。 ──通常では入手できない菌を使うことが出来たのですね。 医療用の乳酸菌は品質や効果がすでに検証されているので、莫大な費用がかかる検証は不要です。それでも、数百種類の乳酸菌から菌を絞り込む実験を繰り返す必要があって、製品化までにはかなりの時間と労力がかかりましたね。そうやって作ったヨーグルトが、自分にはとても合っていた。自分にとっては満足できるヨーグルトが出来上がりました。国が承認する医薬品以外で効能・効果をうたうことはできませんが、東京・神楽坂の工房で作ったヨーグルトは「神グルト」という商品名でインターネット販売しています。 ──実際にいただきましたが、もったりと濃厚で、大変おいしいヨーグルトですね。 効果があるであろう乳酸菌を入れると、ヨーグルトにふさわしくない風味が出たりするんです。市販のヨーグルトには使われていないような菌を入れるわけですから。でも、試作を重ねて1年くらい経った頃、「え、何これ!?」と思う瞬間があって、「めちゃくちゃおいしい!」と驚きました。これが、医師としての専門知識をいかし、腸内環境改善のために考えうるすべての可能性を盛り込んで開発したヨーグルトであり、「神グルト」の原点です。 ──「腸内環境にいいヨーグルト」を作るのは、とても難しいんですね。ヨーグルトの乳酸菌や成分まで深く考えたことがありませんでしたし、どのヨーグルトも同じようなものだと思っていました。最後に、林さんにとって、「腸活におけるヨーグルト」とはどのような存在でしょうか。 続けやすく、おいしくて、有効な手段。少なくとも、私には有効だったわけですが、うちのお客さんたちも支持してくれています。今は3500円と高額ですが、会社規模を拡大してもう少し安く製品化できればと思っています。そうすれば、たくさんの人に効果を享受してもらえますから。 これからの人生は、消化器外科やがんの専門医の経験や知識を活かして、社会貢献していきたいですね。ヨーグルトを通じて、腸内環境を整えて健康を保つことの大切さや、がんに関する正しい知識・現状を伝え続けることが、自分に出来る社会への恩返しだと思っています。