脱炭素化が深刻な食糧危機をもたらす?温暖化対策の“大きすぎる代償”
窒素がこれほど大量に必要なのは、どの生細胞にも窒素が入っているからだ。光合成を推し進める葉緑素にも、すべての遺伝情報を貯蔵し処理するDNAとRNAの核酸にも、私たちの組織の成長と維持に欠かせないタンパク質のいっさいを構成するアミノ酸にも含まれている。 ● 窒素は生命には不可欠だが 大気中の窒素のままでは使えない 窒素は豊富に存在する。大気の80%近くを占め、生命体は窒素に囲まれて生きている。だが窒素は、人間の成長だけでなく作物の生産性にとっても主要な制限要因だ。これは、大きなパラドックスを孕んだ生物圏の現実の1つだが、簡単に説明できる。 窒素は非反応性の分子(N2)として大気中に存在しており、2つの窒素原子の結合を解き放って、反応性の化合物の形成に利用可能にすることができる自然のプロセスは、ほんの少ししかないのだ。 その1つが雷で、雷によって窒素酸化物が生じ、それが雨に溶け、硝酸塩を形成する。すると、森や畑や草地は天から肥料が得られるが、この自然のインプットは明らかに少な過ぎ、十分な作物を生み出して世界の約80億の人を養うことができない。 雷が途方もない温度と圧力によって成し遂げることを、酵素(ニトロゲナーゼ)は通常の状態でやってのけられる。マメ科の植物(マメ類や、一部の樹木)の根についていたり、土壌や植物の中で自由に生きていたりする細菌が、窒素酸化物を生み出す。 マメ科の植物の根についている細菌は、自然界の窒素固定の大半を担っている。つまり、植物によって合成される有機酸を提供してもらうのと引き換えに、非反応性の窒素分子(N2)を分解し、水素と化合させてアンモニア(NH3)、すなわち可溶性のある硝酸塩に簡単に変換可能で植物に窒素を供給できる、非常に反応性が高い化合物を合成するのだ。 そのため、大豆やインゲンマメ、エンドウマメ、レンズマメ、ピーナッツなどのマメ科の食用作物は、自分の窒素を自分で賄う(固定する)ことができるし、アルファルファやクローバーやカラスノエンドウといったマメ科の被覆作物も同様だ。