齋藤健 経産大臣が語る「世代交代」「新しい時代のリーダー」と「中堅企業」
ブラッド・ピットが主演した野球映画『マネーボール』を覚えている人は多いだろう。メジャーリーグの弱小球団が、客観的データを駆使して逆転劇を起こすドラマだ。よく「奇跡の逆転劇」という言葉を使うが、「奇跡」ではなく、実は逆転劇には根拠があり、それがデータや法則の正しい使い方だ。 Forbes JAPAN 9月号「新・ブレイクスルーの法則」は、新たな成長曲線を描き、売上を桁違いに伸ばした会社を集めた。「マネーボール」と同じく、熱い人間ドラマで見落としがちだが、成長には根拠がある。ブレイクスルー企業は、試行錯誤しながら、その根拠を見出しているのだ。 ただ、成長といっても、会社の規模で経営課題は異なり、ブレイクスルーのポイントも違う。なかでも注目すべきが「中堅企業」という部類だ。従業員300人以下の中小企業よりも組織は大きく、中堅企業は従業員数が2000人以下を指す。日本には約9000の中堅企業があり、上場している会社も多い。 日本に存在する1300の大企業よりも中堅企業の数は多いのに、これまで中堅企業に関してはほとんど研究されていない。成長戦略の知見やノウハウが共有されていないのだ。 今年、「中堅企業元年」の旗を掲げている経済産業省は、なぜ中堅企業に着目したのか。齋藤健大臣に話を聞いた。 ■中堅企業が日本経済の期待の層になってきた ──ブレイクスルー特集では、アメリカ市場で一度失敗したり、上場を凍結したりした寝具のエアウィーブや、2024年3月期に記録的な好業績となったサンリオ、売上高増加額でトップの中古車輸出業オプティマス、半導体の検査装置のレザーテックなどを30社以上とランキングを取り上げました。印象的だった点はありますか。 齋藤:今はものすごく変化の激しい時代なので、こういう時代に果敢にリスクをとって挑戦していかないと、挑戦する人たちに劣後しますよね。DXやGXもそうです。資本主義のダイナモ(原動力)であるアニマルスピリッツを感じるのは、中堅企業のリーダーたちです。リスクをとった早い決断をしていて、中堅企業が今の時代をリードすると実感しました。規模感からも、社長がリーダーシップをとりやすい。 ──実は地域活性化に不可欠なのが中堅企業だと、大臣はおっしゃっていますが、その意図は? 齋藤:中堅企業は4割が大都市圏以外に存在しています。大企業は大都市圏に集中しているけれど、地方の中堅企業が成長すると、地域に大きな影響が出る。その一つが賃上げの牽引役です。 この10年間で、中堅企業の給与総額は18.0%伸びており、大企業の12.3%よりも多い。また、従業員数でも17.1%増えており、これは大企業と中小企業より多い。雇用と賃金引き上げで果たす役割は大きいのです。 ──これまで中堅企業政策はあまり聞いたことがなかった。ここに焦点を当てた経緯は? 齋藤:一つは時代だと思うんです。私は経済産業省の官僚時代、中小企業庁に勤務していた経験があります。かつては、中小企業が大きくなって卒業すると、中小企業政策が途絶えて、利用できなくなるから、そういう人たちが活用できるようにしようというイメージがあった。ところが、変化が早い時代になると、この中堅企業が日本経済の期待の層になってきた。実態を見てみますと、この10年間の国内売上高の伸び率は、10.7%。大企業は1.4%、中小企業は12.9%だから、期待される成長の姿が見える。 ──海外売上高の伸び方は著しいですね。 齋藤:おっしゃる通り。海外売上高は大企業が強いのですが、それでも中堅企業は海外で87.6%という高い水準で伸びています(編集部注:大企業の海外売上高の伸び率は55.6%、中小企業は69.7%)。 それから国内投資も大企業よりも伸び率が高いんです。10年間で大企業の国内投資が0.7兆円で7.3%の伸び率に対して、中堅企業は1.5兆円で37.5%の伸びです。人材育成投資にいたっては過去10年間で大企業はマイナス17.6%に対して、中堅企業は31.2%の伸び率で130億円も投資している。こうした実態から、むしろ中堅企業をターゲットにして政策をとれば、もっと良い展開が生まれるという判断があったのです。