『オクラ』"千寿"反町隆史がまさかの行動に 主人公に伏線仕込む武藤将吾脚本が炸裂
『オクラ~迷宮入り事件捜査~』(フジテレビ系)第10話は、最終話直前にして混迷が極まる展開となった(以下、ネタバレあり)。 【写真】信じていた人に裏切られた利己(杉野遥亮) 愁(観月ありさ)を撃ったのは幾多(橋本じゅん)なのか。ライフルを所持していた幾多に疑いの目が向けられるが、幾多の衣服から硝煙反応は出なかった。管理官である尾瀬(松角洋平)の指示で、オクラに加勢(中村俊介)殺害事件の捜査本部が設置され、オクラのメンバーも捜査に加わることになった。 愁は一命を取り留めたが、愁が持っていたチップの情報によると、首都爆破テロまで残された時間は7日余り。千寿(反町隆史)は爆弾の場所が記されたもう1枚のチップを探す。その頃、捜査本部では、利己(杉野遥亮)と志熊(有澤樟太郎)の指揮の下で捜査が進展。元刑事の門真(山中聡)に爆弾の指示をしたメールは、幾多のアドレスから送信されていたことが判明する。パスワードを共有するオクラのメンバー全員に対して、事件との関連性を調べることになった。 怪しいと思わせて、結局やっぱり怪しくなかった幾多にやや拍子抜けしたものの、ここまで引っ張ったのは、本丸に誘導するための仕込みだったことが後にわかる。複数の筋が入り乱れる『オクラ』で、「ハイドアンドシーク」が警察上層部の命を受けて動く公安の極秘部隊であることは前話で明らかになった。もう一つの任務が首都爆破テロで、亡くなった加勢の関与が疑われた。未解決事件の隠ぺいだけでなく、テロ行為に手を染める組織の目的はいったい何なのか。謎は深まる一方のところ、加勢を殺し、チップを奪った人物の存在が浮上する。最初に勘づいたのは利己だった。
真実を知った利己(杉野遥亮)の涙
主人公に謎や裏切り要素を仕込むのは、本作の脚本を手がける武藤将吾の常とう手段である。『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)の生徒を人質に取って立てこもる教師・柊一颯(菅田将暉)や、『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』(日本テレビ系)の記憶を失った刑事の遊佐清春(賀来賢人)は、ドラマ終盤でその企ての全貌や驚愕の事実が明かされた。 愁が刑事連続殺人事件の実行犯だったことに加えて、千寿まで同期の加勢を手にかけていたことは二重のショックを与えるもので、物語の行く先が見えなくなる点で観る側を混乱に陥れる効果があった。千寿はハイドアンドシークの人間ではなく、首都爆破テロを阻止しようと動いている点で、組織と対立する立場である。利己を拘束して去った千寿は、利己や倫子(白石麻衣)たちオクラのメンバーと距離を置いた。最終話直前で三つ巴の構図が生まれたことになる。 真実を知った瞬間の利己の涙は、理屈を超えたものに見えた。バディといっても年齢や経験に差がある二人が、少しずつ互いを理解し、距離を縮めて、それでもやはり埋められないものがあること。突き放されたような寂しさや自身の無力さへの憤りもあったと思うが、それ以上に信じていた人に裏切られたショックが大きかっただろう。 常に冷静で感情におぼれない利己だからこそ、千寿のたくらみを看破できたわけだが、そのことは逆に相棒の離反をまっさきに受け止めることを意味しており、悲しみの深さが涙になったとも言える。千寿はヒールになることを恐れていない。加勢の命を奪ったのは千寿なりの正義感の発露だが、幾多が指摘したようにそれは「歪んだ正義」にすぎない。「あなたが自分の正義に背いたその時は、容赦なく引き金を引く」と利己は千寿に言った。その言葉が現実にならないことを祈るばかりだ。
石河コウヘイ