「起業して大金持ちになろう!」…実業家の演説を、大学の進路指導担当教員が苦々しい思いで聞いたワケ
物事には「見える部分・見えない部分」があり、それについて「聞こえる声・聞こえない声」があります。ビジネスや人生設計などの重要な局面で、一部の見え方や一部の意見だけを判断材料にすると、ときに大きな後悔につながりかねません。元メガバンカーで大学教授の経歴も持つ、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
キラキラした成功者の背後にかすむ、大勢の敗退者たち
パチンコ屋やカジノに行くと、店にいる客の多くが満面の笑みを浮かべています。さぞかし勝っているのでしょう。しかし、それを見て「この店は客に優しい。自分でも勝てそうだ」と考えて遊び始めるのは危険です。 朝から1,000人の客が来て、990人は負けて帰宅し、偶然勝っている10人だけが店に残っている、ということだから店内の客が皆笑顔なのです。したがって、自分が遊びはじめれば、11人目の勝ち客になる確率よりも、991人目の負け客になる可能性のほうがはるかに高いわけです。 パチンコやカジノで負けるくらいなら構いませんが、人生で同じ失敗をするのは悲惨です。学生に向かって「サラリーマンなんかつまらない。私のように起業して大金持ちになろうよ!」と演説をする実業家がいますが、教員として学生の進路指導を担当していた筆者にとって、あれは迷惑でした。 演説をしている実業家は大金持ちでしょうが、同じように起業して失敗して破産した人も大勢いるわけです。しかし、そうした人は学生の前で「起業は危険だからサラリーマンになりなさい」といった演説をすることがありません。 そこで学生は「起業すれば大金持ちになれる」と考え、就職活動をやめてしまいかねません。進路指導担当としてはそうしたことがないように、学生に「起業して失敗して破産した人も大勢いるのだ」ということを、しっかり認識させなければならないのです。 夢を追うのは悪いことではないので、「それがわかったうえで、なおかつ起業して夢を追いたいというのであれば応援するけどね」と付け加えることも要検討ですが、このあたりはむずかしいところです。自分の能力を過大評価して無謀な挑戦をしかねない学生も多いでしょうし、反対に「就職活動をサボりたいから進路指導担当には起業するといっておこう」という学生もいるでしょうから。