「いつもお弁当なのに今日はどしたん?」 大阪桐蔭を初の全国制覇に導いた“部活動の指導者”が大切にしたこと
見放さない、ほったらかしにしない、見捨てない
私が、高校生に関わるうえで大事にしていたのは、「何があっても絶対に見放さない。ほったらかしにしない。見捨てない」という気持ちです。 「部長と選手」ではなく、「人と人」として関わりを持つ。 不安や悩みがあるのであれば、「何かあったか?」と声をかけてやるだけで、気持ちが少し楽になる生徒もいるものです。 極端な例になるかもしれませんが、路上で人が倒れていても、助けに行かないことが多い世の中になりました。善かれと思った行動が、逆に迷惑な行為だと思われ、自分が被害を受けることもあるからです。 そうであれば、目の前の問題にはわざわざ手を出さずに、傍観者でいるほうがいい。 人が苦しんでいるのに、遠くからスマホで撮影している若者がいるという話を聞くと、「これからの日本は大丈夫なのだろうか?」と不安に感じることもあります。 だからこそ、若者の教育に携わる大人は、“お節介”であるぐらいがちょうどいいと思うのです。積極的に関わり、声をかけていく。思春期の高校生なので、「面倒だなぁ」と感じるかもしれませんが、それでもいいのです。 「森岡先生はぼくのことをしっかりと見てくれている」と、1ミリでも思ってくれれば十分です。こうした関わり合いの中で、心の安定を保つことができれば、持っている能力を最大限に伸ばしてあげられるはずです。
今も昔も日本一に大事なことは変わらない
時代がどのように変わっても絶対に変わらないのが、「1日は24時間」という、私たちに与えられている時間です。 その24時間をいかに使うか。それによって人生は大きく変わります。 愛情を持った指導者であれば、目の前の子どもたちの成長のために、24時間のほとんどを使い続けるはずです。 それは「同じ空間で同じ時間を過ごす」という意味ではありません。 「どうすれば、あいつはもっとうまくなるのか」と考え続けることこそ、愛情を注いでいる時間と言えるのです。 私は、目標を達成するためには、何らかの我慢や犠牲が必要だと思っています。自分の趣味などやりたいことを全部やったうえで、「野球でも日本一になろう」というのは難しいのではないか。 それだけ、与えられた時間には限りがあり、「あれもこれも」はできないのです。特に高校生の場合は、入学から3年の夏の大会までは2年半。「高校3年間」とよく表現されますが、実質は900日ほどしかないのです。彼らと接する一日一日が大切な時間であり、無駄な時間などひとつもありません。 プロ野球選手になりたいという子どもたちにも同じようなことを伝えています。 「本気でプロになりたいと思ったら、我慢しなければいけないこともあるよ。ゲームをやってはいけないとは言わないけど、ゲームに1時間も2時間も没頭するのであれば、ほかにやるべきことがあるのではないかな?」 これは何も、「24時間、野球の練習をしなさい」と言っているわけではありません。 大事なことは、時間の使い方を考えることです。 今の過ごし方が、本当に将来の自分のために役立っているのか。それを、自分で考え、実行に移せるようになれば、野球の力もおのずと上がっていくはずです。 2023年にMLBで日本人初のホームラン王を獲得した大谷翔平選手は、コンディションづくりをとても大事にしているアスリートとして知られています。 「もし、1日1時間増えるのであれば、何をしたいか」というインタビューに対して、「睡眠」と答えています。寝ることが自らのコンディションを整え、ベストのパフォーマンスにつながることを知っているわけです。 このように一人ひとりが自立し、目標達成のために行動できる集団になれば、そのチームは間違いなく強くなります。自立を促すために、指導者は愛情を注ぎ、言葉をかけ、期待をかけ、ときには負荷をかけ、選手の心と体の成長をサポートしていく。 令和の時代になっても、指導者が大切にすべき考えと言えるでしょう。 森岡正晃(もりおか・まさあき) Office AKI 晃 代表。PL学園高校出身。高校時代は野球部主将を務め、近畿大学に進学。大学では硬式野球部の学生コーチも務める。また、PL時代の恩師・鶴岡泰(のちの山本泰)氏の助言で、中学校・高等学校教論一種免許を取得。大学卒業後は、教員となり、鶴岡氏が監督を務める大阪産業大学附属高校野球部でコーチとして高校野球に携る。大阪桐蔭高校では、野球部の初代部長に就任。自らリクルートした選手を一から育て、創部4年目で第63回選抜高等学校野球大会ベスト8、第73回全国高等学校野球選手権大会で全国制覇を果たした。 協力:あさ出版 あさ出版 Book Bang編集部 新潮社
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