「いつもお弁当なのに今日はどしたん?」 大阪桐蔭を初の全国制覇に導いた“部活動の指導者”が大切にしたこと
リーダーがやるべきことは「監視」ではなく「観察」
指導者には、メンバーの心の状態を察知する力が必要だと私は考えています。 どんなに意識の高い人間でも、やる気が高い日もあれば、どうにもこうにも気持ちが乗らない日があります。 その心の状態をわかっていれば、相手に対する接し方は変わります。 高校生の場合、平日の練習は授業を受けたあとに行います。 授業で課題を提出したり、発表の準備をしたり、高校生としての日常のあとに練習が始まるわけです。部活動に関わる指導者として、このことを忘れてはいけないと思っていました。彼らは、野球だけに没頭できるプロ野球選手とは違うのです。 私は教師として授業を持っていたので、野球部員の様子を見ていましたし、昼になれば食堂に行って、部員と一緒にご飯を食べていました。 たとえば、そこで、自宅から通っている生徒が、いつもはお弁当を持ってきているのに、今日に限って、コンビニで買った軽食を食べていたとしましょう。 すかさず私は声をかけます。 「お前、いつもお弁当なのに、今日はどうしたん?」 「いや、ちょっと、母親の具合が悪くて……」 「そうか、それは心配やな」 こうした会話ひとつで、その生徒の心の状態を知ることができます。それがわかっていれば、仮に、グラウンドで覇気のないプレーをしたとしても、いつもと同じようにガツンと叱るのではなく、抑えて叱ることができます。 グラウンド外での選手の様子を観察しておかなければ、臨機応変に対応することができません。「選手が悪いことをしないように」「何かあったらすぐに注意ができるように」と、高校生のことを監視している指導者もいますが、それは完全に間違った考えだと思います。 大事なのは、“監視”ではなく“観察”です。 毎日、彼らの表情を見て、挨拶の声を聞いていれば、「どうした? 今日はちょっと元気がないぞ」ということはわかるようになります。というよりも、わからないといけません。 指導者は、グラウンドで練習が始まる前に見ておくべきことがたくさんあるのです。 その点、教員として生徒たちの日常を観察することができたのは、選手との信頼関係を築くうえで私にとって意味のある時間になりました。