上原ひろみ×石若駿 ジャズ界のトップランナーが語り合う使命感、歴史的共演の舞台裏
J-POPと繋がる意味、トップランナーとしての使命感
―今回の『JAZZ NOT ONLY JAZZ』にはいろんなシンガーが登場するわけですが、お二人ともJ-POPの仕事もかなりされてますよね。J-POPの人たちと演奏することについて、どういう面白さがあるのか聞かせてください。 石若:面白がってくれてる感じがすごくあります。それが良い方に作用していく過程が僕は楽しいですね。あと、ポップスをやっている人でも、実はジャズが好きでよく聴いている人が多いんだなっていろんなところで思いますね。みんなも見たことのない新しい景色を見たいんだろうし、実際にそれが感じられる瞬間があって。そういう違うエッセンスやスパイスみたいなものが自分の役割だと思って関わっています。 ―サマーソニックで上原さんのステージにハナレグミが出てきたとき(2016年)、ビーチステージのトリで本当に素晴らしかったですけど、「歌の伴奏」とはまた違う関わり方にも映りました。上原さんが歌モノの演奏をするときはどんなことを考えているんでしょうか? 上原:私が一緒に演奏したいと思う歌手の方は、音楽をしっかりと突き合わせられる人ですね。永積(タカシ=ハナレグミ)くんのときは、タップダンサーの熊谷(和徳)くんとのセッションだったからライブっていう感じでもなかったけど、彼も音楽が大好きで自由にやらせてくれるのは重要だったかな。受け幅というか余白がちゃんとあるのが大切だけど、自分もただ好きにやるのではなくて、その人の歌と自分が合わさった時の音像を客観的に見て良いものにしたいし、そう思える人とやりたい。私はそういう点では両思いな人とずっとやれてる感じがします。 ―上原さんはJ-POPで、どんな人が好きなんですか。 上原:自分が一緒に演奏したことがある人はもちろん好きですね。矢野顕子さんや吉田美和さん(DREAMS COME TRUE)、中村佳穂ちゃんとか。それ以外だと……例えば、ザ・クロマニヨンズが好きです。でも、実は(甲本)ヒロトさんとは一度RISING SUNでピストルズの曲を一緒にセッションしたことがあるんです。あと、宇多田ヒカルさんも聴きます。宇多田さんのアルバム作りを見てると、一緒に演奏するミュージシャンに対して強いこだわりを持っているのがわかりますよね。そのときに目指してる音像が明確にあって、必要なミュージシャンをいつも抜擢している感じ。音楽を本当に愛していて、音楽ファンであることが伝わってくるのがとても素敵だなと思います。 石若:ザ・クロマニヨンズは、僕がサポートで叩いてるくるりとの対バンがあったときに初めて見たんですけど、生で見る甲本さんやばいっすね。本当にすごかった。 上原:私、ザ・クロマニヨンズのライブにはよく行ってるんだけど、ヒロトさんとは演奏経験もあっても、ライブに行くとただの1ファンになっちゃう。「ヒロトー!」って叫んでるし、マーシーにも手を振ってる(笑)。彼らはスタジオに入って、アルバムを作って、ツアーして、 またスタジオに入って……というのを何十年も続けていて、 理想だなってすごく思います。素敵。 ―石若さんは自分が好きな人と大体共演してると思うけど、まだ共演したことがない人で、好きなJ-POPのアーティストはいますか。 石若:ユーミン(松任谷由実)さんとか一緒に演奏してみたらどんな気持ちになるんだろうって想像したりしますね。母が好きで、ちっちゃい頃に家でよくかかってました。 上原:親の影響もあるよね。私も母が小田和正さんをよく聴いてた。それこそ彼のライブも気合いの塊ですよね。お会いしたことはないですけど。 ―最後に『JAZZ NOT ONLY JAZZ』の楽しみなポイントを改めて教えてください。 石若:今回総じて楽しみなのが、普段サポートに回ってるイメージがない人たちと名曲のコラボですね。今回のセプテット(The Shun Ishiwaka Septet)のメンバーのうち、(渡辺)翔太くんはCharaさんとかと最近やってるけど、特に松丸契と徳ちゃん(細井徳太郎)はサポーティブなことをあまりやってこなかった。そんな彼らが、曲の枠の中で自由なアプローチをするのが面白くて。堀込(泰行)さんが「エイリアンズ」を歌うんですけど、「徳ちゃん、そのボイシング何?」みたいな(笑)。リハをやりながら驚くことが多かったです。感覚としては普段、即興的なことをやってるのとあまり変わらない形で今回できてる気がします。ジャズどっぷりの人たちが有名なポップ音楽に関わることって最近増えてますよね。 ―それは石若さんの貢献がすごく大きいと思いますよ。 石若:もっと具体的な感じで増えてるっていうか……例えばコーチェラで、ラナ・デル・レイのライブにジョン・バティステが参加していたじゃないですか。 あの「ガチさ」がふつふつと最近日本でも行われてるような気がして。これまでより踏み込んだ形の共演が増え始めている。今回もひとつのきっかけになりそうな気がしてます。 上原:こういういろんな人が出るイベントは、それぞれのファンの人たちに自分のことを知ってもらうきっかけになる場ですよね。駿くんはそこを全部繋いでくれている。今回のイベントは彼自身が日本の音楽業界でやってることの縮図のようなものだと思う。駿くんの世代やもっと若い10代、20代の人たちが普段聴いてる音楽には生楽器が使われていないことが多いかもしれませんが、こうしたイベントを通じて「やっぱり生の音はいいな」って感じられると思います。 それって簡単そうでとても難しい。でも、韓国の音楽シーンはそれが自然にできている感じがしました。先日、Seoul Jazz Festivalに出たとき、お客さんがほとんど10代、20代で驚いたんです。一応、ジャズフェスと謳っているけど、ブッキングは若者が興味を持ちそうな人たちをメインに持ってきつつ、そこにジョシュア・レッドマンやクリスチャン・マクブライドといったジャズの人たちを入れていくスタイルで。客席からジョシュア・レッドマン・グループを見ていたとき、若い子がジャズフェスを埋め尽くす光景にびっくりしたんです。 日本のジャズフェスに来る人たちは自分よりもっと上の世代、若くても30代くらいが多い印象です。日本と何が違うんだろう、どうやって韓国は若い世代を引き込んだんだろうと考えると、BTSのような爆発的な影響力を持つK-POPの大スターたちが、ちゃんと自国の素晴らしいリズム隊を使っている事実も大きい気がします。だからといって、「こんなに素晴らしい人たちがいるから聴きましょう」みたいなことは言わず、その音が自然と10代、20代の身体に入っているんですよね。それがリスナーの栄養として重要なんだなって、Seoul Jazz Festivalで改めて感じました。 ―めちゃくちゃ大切な話ですね。 上原:日本もそうなっていったらいいなと思いますね。駿くんよりもっと若い世代に、自然と生の音楽が染み込んでいくといいなと。もちろん私も今回参加できて嬉しいですし、そういうことの足掛かりになるといいなと密かに思っています。 --- (配信チケット情報) JAZZ NOT ONLY JAZZ 配信期間:2024年8月16日(金)19:00~8月23日(金)23:59 配信チケット販売期間:2024年6月7日(金)16:00~8月23日(金)20:00 (番組情報) JAZZ NOT ONLY JAZZ スペシャルエディション 2024年9月23日(月・祝)放送・配信予定 ※放送・配信終了後~WOWOWオンデマンドにて1カ月のアーカイブ配信あり ステージの模様に加えて、出演者による貴重なインタビューなども収録 収録日:2024年6月21日/収録場所:東京 NHKホール
Mitsutaka Nagira