上原ひろみ×石若駿 ジャズ界のトップランナーが語り合う使命感、歴史的共演の舞台裏
音楽を通じて「気合い」を感じたい
―上原さんが石若さんとしっかり一緒に演奏したのは、昨日のリハーサルが初めて? 上原:そうですね。『BLUE GIANT』のときはエンドロールの曲は自由にできたけど、それでも普段と全然違うタイプの曲でした。「BLUE GIANT」という曲ではキャラクターから少し離れた自分たち自身の演奏でしたが、映画はサックスプレイヤーの話なので私はソロもなかったですし。ちゃんとセッションしたのは今回が初めてです。 ―初めて演奏してみてどうでした? 石若:リハが終わってマーティ(・ホロウベック)と、「俺たち上手くなってね?」みたいな話をしました。一緒に演奏するだけで、自分のタイムや頭の中で鳴ってる音符が具体的になる感じがあった。ひろみさんの音楽には変拍子を羅列した曲もあって、普段僕らはそういう曲を演奏する機会があまりありません。その中で、どうはみ出たりキープしたりコミュニケーションを取ったりするのか、 その瞬間がどうやって思い出深いものになっていくのか。リハの段階から120%の力でできたのは、貴重な音楽体験でした。 あと、学生時代にオーケストラとか現代音楽のアンサンブルのリハをやってたのを少し思い出しました。ちょっとした拍の取り方や、音色、響きの部分をひろみさんが細かく聴き取って調整しているような印象がありましたね。 ―上原さんの音楽をこんな短期間で演奏する機会も珍しいですよね。いつもパーマネントなバンドでやってきたじゃないですか。普段やらない彼らとやってみてどうでしたか? 上原:曲を身体に入れてから臨んでくれてるのがわかったので、メンバー全員からすごい気合いを感じました。私が音楽をやる上で一番感じたいことってそれなんです。 ―気合いを感じたい。 一同:(爆笑) 上原:「やる気」っていうのかな、「パッション」かな? 「パッション」と「気合い」って違う? 「気合い」って英語で何て言うんだろう。 石若:たぶん同じ種類だと思います。 上原:日本語の「情熱」って、英語の「パッション」とは少し違う気がします。「情熱」は少し柔らかいイメージだけど、英語の「パッション」は「気合い」に近いイメージ。そういう意味で、私が翻訳するとそうなる。とにかくそういうのをみんなから感じました。 やっぱり1回目は全員が持ってる揺らぎの調整っていうか、フィールを合わせていくのに少し時間はかかるけど、安心感は最初からありましたね。音の1つ1つが本当に意味を持つと言いますか。惰性が一切ない演奏だと思ったので嬉しかったし、本番が楽しみになりました。 ―ちなみに一昨日、たまたま西田修大くんにブルーノート東京で会ったんですけど、「帰ってすぐ練習します、超難しいっす」と言って帰っていきました。 上原:マーティは『BLUE GIANT』の劇伴で演奏してもらったので、西田くんだけ今回初めて会ったんですけど、リハの時から「私どう思われてるんだろう」っていうくらい彼は緊張でガチガチで(笑)。普段はサポートの仕事が多いと言ってたから、このバンドにサポートはいないっていうことから伝えました。歌の人たちがいるときはバックバンドという形になるわけで、きっといろんな決まり事があるじゃないですか。ソロとかも小節の数が決まってるだろうし。でも私との演奏に関しては、サポートメンバーは1人もいなくて、私も名義上はゲストだけどバンドとして出るつもりだと言ったんです。こういうことを良かれと思って伝えたのもきつかったのかもしれない(笑)。 石若:そんなことないと思いますよ。彼は燃えるタイプなので。 ―「駿と出会ってなかったら、上原さんと一緒に演奏する機会なんてなかったと思います」とも言ってましたよ。 石若:最初のリハの後に、めっちゃ熱いLINEが来て。「駿と出会えてよかった!」みたいな。 ―そうそう、西田くんはそういう人(笑)。 上原:やっぱり私も含めて、自分の限界を超えた先を見ることがあるんですよね。それをみんなでサポートするのがバンドだと思うし、その瞬間を見たくてやっているんです。 本番では2曲目(「Return of Kung-Fu World Champion」)で西田くんが加わるんだけど、私がイントロを弾いているときにステージに入ってほしいと、リハの時にお願いしたんです。ギターとピアノが向かい合う配置なので、本来彼は(上手から)すぐにステージに入れるんですが、(下手から)真打ち登場みたいな感じで現れてほしかった。会場に期待感を生む登場を演出するなら、やっぱり動線は長い方がいい。それで私側から出てきてほしいって言ったら、「ひろみさんの前を横切っていいんですか?」って言われて。だから、もう、そういうことじゃないんだよって(笑)。もっと「俺、俺、俺だよ!」ぐらいの気持ちで。彼がソロを弾く時も、私たち3人が「まだ帰ってこないな」となるくらい遠くに行ってほしいと伝えて。今日、会場全体が西田くんに恋すると思います。 石若:たしかに。 上原:かっこいいよね。もう最後、全部持ってくんだろうなって。昨日リハしながら思ったから。 ―石若駿とマーティは今の国内で最高のリズムセクションだと思いますが、彼らについてはどう思いますか。 上原:すごくやりやすいし、わくわくする。1つ1つの音に気持ちが乗っていて惰性がないんです。一緒に演奏できる楽しみって自分が弾くことでもあるけど、聴くことでもある。相手から飛んでくる音の情報を1つでも多く身体に入れて、そこから自分がインスパイアされて返すっていう相乗効果がずっと続いていくことだと思うんです。