Mrs. GREEN APPLEやTeleのサポート、Shiggy Jr.復活も話題に 森夏彦、ベーシストとして繋がってきた居場所
【連載:個として輝くサポートミュージシャン】森夏彦 2024年、再集結をしたShiggy Jr.のベーシスト・森夏彦。2019年の解散以降はTHE 2のメンバーとしても活動しつつ、Mrs. GREEN APPLE、Tele、Yogee New Wavesといった様々なアーティストのサポートでも活躍し、ファンクにもパンクにも対応する確かなスキルによって、現代の音楽シーンの中で存在感を発揮している。各サポートの話はもちろん、10代からのミュージシャン仲間との繋がりから、「師匠」と呼ぶ真部脩一の存在、現在のShiggy Jr.に対する想いまで、これまでのキャリアを幅広く語ってもらった。(金子厚武) 【撮り下ろし写真】ミセスやTeleのサポートベーシスト Shiggy Jr. 森夏彦 ミュージシャンとの繋がりから拓けた、Shiggy Jr.解散以降の動き ――2019年にShiggy Jr.が解散して、当時はその後の活動についてどのように考えていましたか? 森夏彦(以下、森):2019年の9月に解散して、正直もうバンドはいいかなと思いました。とはいえ、もっとベーシストとしての仕事が欲しい気持ちはありつつも、何かアクションを起こしたわけでもなく、ふわふわしてる途中でコロナ禍がやってきて。当時バンドを解散して、幼馴染3人でシェアハウスを始めたんですよ。今もプロでレコーディングエンジニアをやってる伊永拓郎と、イラストレーターの石田芙月と僕の3人でシェアハウスを始めて、情報交換したり、お互いの友達を紹介して人脈を広げたり。解散後の最初の1~2年はそんな感じでしたね。そんな中で、当時2をやっていた古舘(佑太郎)はもともと仲良かったんですけど、コロナ禍で暇だったのもあって毎日家に遊びに来てて、僕がちょっとくすぶってた時期とかに「お前はやめるなよ。音楽やってりゃ大丈夫だよ」みたいに励ましてもらいつつ、でもやっぱり当時は悶々とした日々を過ごしていた感じはします。 ――その後に2のサポートを始めたわけですよね。 森:そうですね。Shiggy Jr.時代もショットでサポートをすることはあったんですけど、がっつりサポートとしてやったのは2が最初です。そこから僕のサポート人生が始まったというか、「ちゃんとこれで食べていくぞ」と思うようになったのはそこぐらいからですね。 ――古舘さんとはもともとどういう繋がりだったんですか? 森:僕は高校3年生のときにthe roomsというバンドを組んだんですけど、そのバンドは『Great Hunting』っていうEMI(当時のEMIミュージック・ジャパン)の新人発掘部門でお世話になっていて、当時そこにいたのがThe SALOVERSとか赤い公園で。なので、彼らとは高校時代から知り合いで、1回The SALOVERSのベースが休止したときにサポートで弾いたこともありました。 ――なるほど。2からTHE 2に改名したときに、森さんと元・赤い公園の歌川菜穂さんが加入したのはそういう繋がりだったんですね。 森:僕らの中で言うとアベンジャーズ感がありました(笑)。 ――『Great Hunting』アベンジャーズだったと(笑)。2のサポートをきっかけに、改めてベーシストとして活動していく決意が固まった? 森:Shiggy Jr.時代からバンドはやりつつも、いちベーシストとしてありたい気持ちがそもそもあって、それが今に繋がってるのかもしれません。バンドは大好きで、バンドマンでありたい気持ちはずっとあるんですけど、そもそもプレイヤーがかっこいい音楽が好きでセッションしたりしてたので、いろんな人と音を出したいというのは昔からありました。それこそ元Yogee New Wavesのドラムの粕谷(哲司)と、SANABAGUN.のサックスの(谷本)大河とかと、昔は吉祥寺の南郷7丁目で朝までセッションを月1ぐらいでやって、そこにミュージシャンを呼んだりしてましたね。 真部脩一からジャズ/ファンクまで、多彩なルーツ ――森さんはファンクなベースも弾けるし、パンクなベースも弾けるし、すごくオールラウンダーというか。やはりいろんなサポートをやってるだけあって、いろんなプレイスタイルに対応できる人だなというイメージがあるんですけど、そもそものルーツとして「このミュージシャンからの影響が大きい」というのはありますか? 森:ベースを始めたのは高校生のときで、そのときはパンクキッズだったから、Green Dayとかが好きだったんですけど……今に繋がる一番大きな影響で言うと真部(脩一)さんですね。師匠と呼んでるんですけど(笑)、相対性理論の『シフォン主義』が高校時代に出て、1年間他の音楽を聴かずにずっとそればっかり聴いて、ベースも完璧にコピーして。ダウンピッキングはNUMBER GIRLの中尾憲太郎さん、フレージングは亀田誠治さんとかからも影響を受けてると思うんですけど、一番はやっぱり真部さんだと思います。 ーー今メインで使っているジャズベースも真部さんから譲り受けたそうですが、実際に知り合ったのはいつだったのでしょうか? 森:大学2年生のときです。実は真部さんも『Great Hunting』の大熊(大介)さんという方と仲良くて、僕は大熊さんに見つけてもらったので、「ぜひ真部さんに会わせてくれ」とずっとお願いしてたら、ある日会わせてくれて、そのまま荻窪の銭湯に行き、いきなり裸の付き合いをするっていう(笑)。そこから仲良くさせてもらってますね。いちベーシストを超えて、音楽家としても一番尊敬してる人です。 ――森さんから見た真部さんのすごさは具体的にどんな部分でしょうか? 森:ペンタトニックの使い方がめちゃくちゃ上手いのと、デモをよく聴かせてもらうんですけど、超シンプルなリフとコードとメロディだけのデモでもめちゃくちゃかっこいいのがすごいなって。あとはやっぱり歌詞がすごくて、僕普段は歌詞をあまり聴かないタイプなんですけど、真部さんの歌詞は聴いちゃいます。無機質だけど泣けるというか、無機質なのにロマンチックというか、真部さんのメタ的な歌詞がすごく好きです。何かを超越してるところから見てる歌詞というか、ちょっとニヒリズムもある。楽曲の冷たい感じも好きだし……全部好きっちゃ好きなんですけど(笑)。 ――Shiggy Jr.やYogee New Wavesのようなファンクとかジャズをやる上での影響源として、他にはどんな名前が挙がりますか? 森:黒人音楽はもともと好きだったんですけど、どっぷり浸かったのは大学からで、当時はディアンジェロとかネオソウル的なものにハマって、ピノ・パラディーノだったり、そこら辺の海外のベーシストのコピーをしたり、セッションで友達と情報交換したりしてました。あと僕、the roomsが解散した後に、ビルボード(ライブ東京)で1年ちょっとくらい働いてたんですよ。そこで仕事をしながらではありますけど、いろんな海外のアーティストを見れたのもすごくいい経験でした。 ――バンドに所属しつつ、いちベーシストとしていろんな人と演奏するという状態は、昔から望んでいたことだったんですね。 森:ありがたいことに、サポートをいろいろやらせてもらいながら、今はShiggy Jr.が復活したので、本当にやりたいことをやらせてもらってる感じはありますね。 ミセスのサポート、THE 2加入……刺激的なバンド活動 ――一時期は「もうバンドはいいかな」となったものの、2022年にTHE 2の正式メンバーになったのは、やはりメンバーとの関係性もありきでということだったのでしょうか? 森:そうですね。もうバンドなんてやらないと思ってたんですけど、THE 2はギターの加藤(綾太)も10代から知り合いだし、菜穂ちゃんもいるし、これでやらなかったらもう一生バンドやらないだろうなっていうメンツだったので、だったらやろうかなっていう感じでした。ただそこから2年活動して、人生のいろんなタイミングが重なって、みんな前向きな形で解散した感じでしたね。 ――THE 2は短い期間にいろいろありましたもんね……。 森:ライブのたびに何かしらお知らせがあって、「お知らせバンド」って言われてましたからね(笑)。でも今思うとそれはそれで楽しかったというか、あんなバンド他にいないですから。Shiggy Jr.を再結成して今もやれてるのは、THE 2をやって、自分はやっぱりバンドをやってたいんだなっていうのをすごく感じたのも大きかったですね。 ――Mrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)のサポートをするようになったのはどのような経緯だったのでしょうか? 森:彼らがデビュー前の、16歳とかのときに、最初のオリジナルメンバーのベースが抜けたタイミングで、縁あってサポートを半年くらいやってたんです。そこからたまにライブを観に行ったり、もちろん音源も聴いてたんですけど、2021年の終わりぐらいに「一緒にスタジオ入ってくれませんか?」っていうことで、そこからサポートをするようになりました。まず新曲のレコーディングがあって、復活ライブの『Utopia』(『Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW “Utopia”』)に出てっていう感じですね。 ――ミセスの音楽の魅力や、そこにベーシストとして参加することの面白さをどのように感じていますか? 森:ミセスは全てが計り知れないんですけど、ベーシスト的なことで言うと、ちゃんと楽曲を表現しなきゃいけないっていう気持ちを強く持ってやっていますね。どのサポートでもそうなんですけど、ミセスに関しては特にです。やっぱり楽曲の強度がすごく高いので、その中の一部として、しっかり表現したいと強く思ってますね。曲調が本当に幅広いですし、転調もするし、ルートも毎回変わるし、すごく大変ではあるんですけど、それができたときの達成感とか、あのステージにいられる高揚感はやっぱり他には代え難い。(大森)元貴のデモはすごく完成されていて、彼の頭の中で緻密に作られているので、それをちゃんと表現することを意識してやってます。 ――ミセスのアレンジはかなり構築的ですよね。 森:いい意味で曲が相当変というか、プログレというか、一筋縄ではいかない曲ばっかりで、展開もすごいから……QUEENみたいじゃないですか。僕は小学生の頃からQUEEN大好き人間なんですけど、通ずるものを感じますね。「なんで今ここでその展開になるの?」みたいなのはやっててすごく面白い。日本でそれをやってちゃんと売れているバンドは他にいないと思うので、めっちゃ面白いです。 ――好きな曲、すごいと思う曲を具体的に挙げてもらえますか? 森:いっぱいあるな……レコーディングには参加していない曲なんですけど、「フロリジナル」を最初聴いたときはびっくりしましたね。聴いていると自分なりの映像が頭に浮かぶ曲があって、「フロリジナル」にはその感じがあったんですよ。ミセスには「これどうやって作ったの?」みたいな曲が多いんですけど、「フロリジナル」は特に思いました。「ニュー・マイ・ノーマル」も1回聴いたときは理解できなかったんですけど、聴けば聴くほど良くなっていって、そこがすごいですよね。ミセスの曲って、キャッチーなようでキャッチーじゃないようでキャッチーっていう感じなんですよ(笑)。レイヤーがあって、最終的には聴きやすいんですけど、一発ではわからなかったりする。そこが深いというか。特にフェーズ2(活動再開以降)からは入り組んだ作品が多くて、とんでもないペースで元貴は曲を書いてるんですけど、「なんでこのペースでこんなすごい曲がポンポン出るんだろう?」って。