再起?引退? 練習を本格的に再開している元3階級制覇王者“激闘王“八重樫東にその真意を聞いた
ボクシングの元3階級制覇王者、八重樫東(36、大橋)が、連日、大橋ジムに顔を出して練習を続けている。昨年12月23日にIBF世界フライ級王者、モルティ・ムザラネ(37、南アフリカ)に挑戦したが9回2分54秒TKO負けして、最年長の王座奪回に失敗した。以来、進退についての態度を保留してきたが、八重樫は再始動した。本当に再起なのか?それとも引退なのか? 悩める“激闘王“にその真意を聞いた。
「やる選択肢はないと思うが今はわからない」
午後4時。 大橋ジムに流されるバックミュージックが切り替わった。 まだ誰も練習生が来ていないジムに八重樫が現れた。いつものようにバンテージを巻き、練習用のサプリメントを数種類飲んで、ジムワークが始まった。シャドー、サンドバック、そして、松本好二トレーナーをパートナーにミット打ちまで行うと、最後は、お決まりのフィジカルトレーニングに歯を食いしばった。 「家にいても暇なんで。趣味でやっているだけです」 八重樫は、そう言って笑うが、年明けから再開している、その練習内容は「趣味レベル」のものではなかった。 「これから、どうしたいのか、自分では今はわからないし、何も決まっていません。次に何をしたいか、やれるのかもハッキリとはしないんです。正直、やるという選択肢はないと思うんです。でも、気持ちが変わったときに、動き始めても、もう年齢的にも遅いし間に合わない。今は、まだライセンスは返上していません。やるにしろ、辞めるにしろ、自分の気持ちが決まったときに、その時点で肉体の準備だけはしてあるという状態にしておきたいんです」 八重樫が悩める心境を明かす。 昨年の“クリスマスイブイブ“の日。八重樫は、2017年5月にミラン・メリンド(フィリピン)に1ラウンドTKO負けをしてIBF世界ライトフライ級王座を失って以来、2年7か月ぶりとなる世界戦のリングに立った。相手は歴戦の“日本人キラー“ムザラネである。八重樫は善戦虚しく、9ラウンドにTKO負けを喫した。 映像は何度か見直した。 「悔いが残る」 八重樫は、そう振り返った。 1ラウンドから4ラウンドまで足を使った出入りのボクシングを徹底、「2Dボクシング」でペースを握った。「超接近」してのアッパー、ボディ攻撃を織り交ぜながら、とびつくようなトリッキーなパンチでも翻弄もした。6ラウンドまでジャッジの一者が2ポイント差で八重樫、一者が2ポイント差でムザラネ、一者がドローだった。 だが、本能からか、中盤は打ち合いの展開になってしまい被弾が目立ち始め、7ラウンドには、右ストレートからのワンツースリーのコンビネーションブローを2度、もろに浴びた。実は、その衝撃で、このラウンド、左目に眼窩底骨折を負った。 ジムの後輩のWBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の井上尚弥が、WBSS決勝のノニト・ドネア戦で、その左フックで右目に負わされたケガと同じ。相手が二重に見えるどころか「そこからパンチが見えなくなった」という。 ムザラネの右を避けられなくなった。王者陣営も、八重樫の異変に気付いていた。8ラウンドには、ボディから右ストレートを浴び、防戦一方。もうグロッキー寸前の状態となり大橋秀行会長が試合を止めようとタオルを持った。 「前半はいいペースでボクシングができたんですが、終盤にダメージを負ってからもう自分の距離感でボクシングができなくなった」 9ラウンドに一度は盛り返したが、もう試合をひっくり返す力は残っていなかった。ロープを背負い一方的にパンチを浴び、ダウンはしなかったが、レフェリーはダメージを認め試合を止めた。