再起?引退? 練習を本格的に再開している元3階級制覇王者“激闘王“八重樫東にその真意を聞いた
試合前、八重樫は、「心を折られて負けたらボクシングをやる意味はない」と語っていた。「12月23日以降の予定は何もいれていない。そこからの人生は白紙」とも言っていた。 だが、アクシンデントに見舞われた、この試合は、心を折られたのではなく、肉体を壊された試合だった。だから八重樫は、試合後、すぐに引退を決断しなかったのかもしれない。 ボクサーとしての火は消えていないのか。 「決してボロボロになるまでボクシングをやろうという気持ちはないんです。引退試合というものをセッティングしてもらって、そこで適当な相手と試合をして、それを最後にするのも違うと思うんです。一度、引退します。と言って、やっぱりやりますと、前言を撤回して帰ってくるのもカッコ悪いじゃないですか。だから、まだ……」 現在は眼窩底骨折も治り視力も戻っているという。 実は、八重樫には、秘めた第二の人生プランがある。これまで何人かの著名なフィジカルトレーナーの指導を受けてきて、八重樫なりに整理したフィジカルトレーニング論があり、またサプリメントについては”博士”なみの知識がある。15年間のプロ生活の中で構築してきたトレーニング理論や自らの実体験を生かして、ボクシング、格闘技に特化したフィジカルトレーナーとして、有望選手と個人契約を結び、将来の世界王者を育成したい、という目標がある。元世界王者がジムの会長やトレーナーとして第二の人生をスタートするケースは少なくないが、八重樫が挑みたいのは異質なトレーナー像だ。 引退を決断して、その第二の人生に進む場合にも自らがトレーニングを続けておかなければ、選手を指導することができない。今、八重樫が、肉体が錆びつかないように練習を続けているのは、その言葉通り、再起するにせよ、引退してボクシング専門の個人フィジカルトレーナーの道へ進むにせよ、来るべき決断の日に備えた準備なのだろう。ムザラネ戦を見る限り、左目の眼窩底骨折のアクシデントがあったとはいえ明らかに反応は悪くなっていたし打たれ弱くなっていた。 長年の勤続疲労である。できれば、もうリングには上がって欲しくないのが、筆者の本音だが、凄まじい努力を続けてきた“心のボクサー“八重樫に向けて、そう軽々しい言葉は伝えられない。 「自分の生き方は自分で決める」のヨネクラジムの伝統を受け継ぐ、大橋会長も、心に秘めた思いは表に出さないでいる。 八重樫は、2015年にタイトルを失ったときは、喪失感と引退に気持ちが大きく傾いたこともあって、約8か月間ジムに顔を出さなかった。しかし、今回は負けた4日後には動いた。 「またすぐジムに来なくなるかもしれませんよ」 八重樫はそう言ってニッコリと笑う。 プロキャリア35戦28勝(16KO)7敗の“激闘王“は果たしてどんな人生の決断を下すのだろうか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)