ユニクロの柳井氏も危機感、世界的な大企業もハマる「成功の復讐」というワナ
企業経営はまさに「CHANGE OR DIE」
私は大卒後、大手損保会社に勤めた後、米国留学を経て戦略コンサルティング業界で約20年働いていました。それから、ユニクロの経営者・人材育成機関(FRMIC: Fast Retailing Management and Innovation Center)の担当執行役員として入社しました。 コンサルタントとして多くの企業を見てきましたが、成長しない企業は不活性化していきます。どんどん弱っていきます。 そうした状況を避けるには成長し続けるしかありません。そのためにはこれまでの自社のあり方を自己否定しても、変わり続けなければいけません。 ただ、これが簡単ではありません。 多くの企業は過去に成功したビジネスモデルに縛られ、成功が大きければ大きいほど今までのやり方を変えるのは難しくなります。過去の栄光を捨てられないのですが、捨てなければ衰退します。 まさに企業経営は柳井さんの言葉通り「CHANGE OR DIE」なのです。 どれほど変化するのが難しいかを物語るのが、企業の時価総額ランキングです。 バブル景気が絶頂を迎えていた1989年(平成元年)の年末の段階では世界のトップ5を日本企業が独占していました(1位から日本電信電話〈NTT〉、日本興業銀行〈現・みずほフィナンシャルグループ〉、住友銀行〈現・三井住友フィナンシャルグループ〉、富士銀行〈現・みずほフィナンシャルグループ〉、第一勧業銀行〈同〉の順です)。 では、2024年7月現在はどうでしょうか。トップ5に1社も日本企業がいないどころか、トップ10にもいません。30位台まで下るとトヨタ自動車を何とか確認できる状況です。
世界的な大企業もはまってしまう「成功の復讐」というワナ
これは「イノベーターのジレンマ」と呼ばれる現象で、「成功の復讐」あるいは「経路依存性」ともいわれます。特定の技術や事業モデルでの成功体験が足かせとなり、次の波をつかみ損ねるという、勝ち組によくある落とし穴です。 成功を収めたことで、従来の延長線上で何とかしようとすればするほど打つ手は狭まり、変革は起こせず、停滞します。リスクを恐れて、新しい大きな目標を打ち立てず、「前年比〇%増目標」のような安全運転をしていれば達成できる目標しか掲げなくなります。 当然、世の中があっと驚くようなサービスや製品は生まれにくくなり、少しずつ衰退していきます。 日本企業の凋落ばかり指摘しましたが、世界的な大企業もこのワナにはまっています。 たとえば「写真フィルムの巨人」といわれた米国のイーストマン・コダックは、デジタル化に乗り遅れて法的整理に追い込まれました。 また、かつて世界最大の自動車メーカーだったGM(ゼネラルモーターズ)も燃費の悪い大型車が生む利益に頼り、小型車シフトや環境技術など市場の変化の波に乗り遅れて、破産法を申請しています。 アナログ携帯電話で大成功したために、デジタル化の取り組みが遅れたモトローラも、典型的な「成功の復讐」にはまってしまった企業のひとつでしょう。 一方でGE(ゼネラルエレクトリック)は、祖業はエジソンが発明した白熱電球ですが、現在、GEの売上高に占める白熱電球の比率はほとんどありません。中興の祖であるジャック・ウェルチ氏による経営改革で、事業ポートフォリオの見直しに成功しました。金融業と製造業の複合経営は世界中の製造業のお手本になりました。 ただ、GEは今、その複合経営が行き詰まり、電力タービンや医療機器などの製造業に専念しています。企業の成長と衰退は、常に紙一重なのです。 こうした「成功の復讐」のワナを、柳井さんは当然熟知しています。ユニクロが目指しているのは「イノベーターのジレンマ」とは無縁の企業です。自己否定を恐れずに変わり続ける企業です。 過去に成功したのはそのときの製品やサービス、戦略が環境に適合していたからに過ぎません。環境は常に変わるわけですから、企業も常に変革を起こし続けなければいけないのです。 だから、変わり続ける。それも、経営陣だけが変革を叫んでも限界があります。カリスマ経営者が変革を起こせたとしても、それでは持続性がありません。その経営者が去ったらおしまいです。 だから、ひとりひとりが変わり続けなければいけないのです。誰かに依存せずに、みんなが経営者の意識を持って仕事に臨まなければいけません。組織の成長は、そのひとりひとりの「変革」の力の総和にかかっているわけです。