松本城の「外堀」復元、「城の価値高める」と専門家 事業費は膨らむ見通しの整備事業が本格化へ
2027年度に「南外堀」着手、2032年度に「西外堀」まで完成目指す計画
松本城(松本市)の南側と西側にかつてあった「外堀」を復元する松本市の整備事業が本格化しつつある。同市教育委員会は1月、2027年度にも南外堀から復元に着手し、32年度に西外堀までの完成を目指すとする「史跡松本城整備基本計画案」を公表。専門家は「城の価値を高める」と注目するが、事業費は膨らむ見通しで全容はまだ見えない。市は外堀復元の意義や財源確保の在り方について改めて情報提供し、市民の理解を得ながら進める姿勢が欠かせない。 (馬場響) 【地図】松本城の外堀の地図 一帯にあった約60戸の住宅の多くが立ち退き、見通しが良くなった松本城南側。「市民が松本城を誇りに思い、より価値を感じてもらえるまちづくりが進んでいる」。市お城まちなみ創造本部の石田英幸本部長は、復元予定地越しにそびえる天守を眺めて言った。 復元の狙いは史跡価値を高め、城周辺のにぎわいにつなげることにある。幕末までは、天守がある本丸から内堀、外堀、総堀の順に三重の水堀が張り巡らされていた。外堀の南側と西側は昭和初期までに埋め立てられ住宅などとなり、水堀として残るのは内堀と、外堀と総堀の一部。今回の復元で南・西外堀を掘削し、水をたたえた堀としてよみがえらせる=地図。 市教委は、三重の水堀は「松本城の重要な史跡価値の一つ」と説明。復元は本来の城郭の姿に近づける手段で、竹内靖長・文化財課城郭整備担当課長は「戦国期の防御施設を具現化し、昔の姿を想像しやすくなる」と話す。 市は城の南側を通る市道「外堀大通り」や一帯の整備も進めている。復元後は観光客が城の周囲を歩き、集う場所とすることで「天守と北アルプスを見渡せる魅力ある空間になる」(お城まちなみ創造本部)と見据える。
土壌から基準値超える鉛 掘削→平面的整備→掘削と曲折
南・西外堀の復元は1977(昭和52)年、「松本城中央公園整備計画」に盛り込まれた。長らく動きがなかったが、市制100周年を迎えた2007年、当時の菅谷昭市長が外堀復元を表明。13年度、用地取得に着手した。 ところが17年度、土壌から基準値を超える自然由来の鉛などが検出される。市は撤去費用4億円余が地権者負担になることから、掘削をしない平面的な整備方針に転換した。20年春、外堀復元を公約に掲げた臥雲義尚市長は初当選後、掘削を伴う復元を目指す方針に再転換。今年3月の市長選でも再選された。 汚染土壌の問題について市は再転換後に検討を重ねた結果、外堀掘削で出た土砂を遺構の「保護層」として活用することで汚染土壌の搬出が不要になり、地権者負担などは生じなくなる―と説明する。
「水の街の松本」アピールへの期待
曲折の間にも用地買収は進み、4月12日時点で対象用地の98%に当たる9173平方メートルを取得。費用は約24億円に上る。市教委は取得用地で復元に向けた発掘調査を本格化させ、外堀の形状や範囲の特定を進めている。 大がかりなプロジェクトの行方に識者も関心を寄せる。全国の城郭に詳しい名古屋市立大の千田嘉博教授(城郭考古学)は「水堀を巡らせた江戸時代の姿を取り戻す事業で、極めて価値が高い」と評価。全国でも最大級の復元事業との見方を示す。 臥雲市長も16日の記者会見で「(水堀復元で)松本が水の街であることを内外にアピールできる」と強調した。