「リバプール・分析コラム」快勝のマンU戦で遠藤航の居場所はなくなった? 予想を上回ったフラーフェンベルフの凄さ
プレミアリーグ第3節、マンチェスター・ユナイテッド対リバプールが現地時間1日に行われ、0-3でアウェイチームが完勝を収めた。発足まもないアルネ・スロットのチームは、3年目を迎えたエリック・テン・ハフ体制を遥かに凌ぐ完成度で叩きのめした。その中で最も欠かせない役割を担っていたのが、遠藤航からポジションを奪ったライアン・フラーフェンベルフだ。彼の成長したポイントについて分析する。(文:安洋一郎) 【動画】マンチェスター・ユナイテッド対リバプール ハイライト
●リバプールがマンチェスター・ユナイテッド相手に敵地で完勝 アルネ・スロット新体制のリバプールが、自分たちの“強さ“を証明するには十分すぎる90分間だった。 リバプールは開幕戦でイプスウィッチ・タウン、第2節でブレントフォードと対戦して2連勝を飾っていた。ただ、前者は昇格組、後者は昨季のプレミアリーグで16位と格下であり、今節のマンチェスター・ユナイテッド戦が新体制の実力を図る試金石になると位置づけられていた。 結果は3-0でアウェイのリバプールが完勝。攻撃では整備された前線からのプレスと中盤の高い強度を活かしたショートカウンターから決定的なチャンスを作り出し、守備ではフィルジル・ファン・ダイクらDF陣と守護神アリソンらが好守をみせて開幕から3試合連続で無失点に抑えた。 スロットのチームはユルゲン・クロップの下で培った土台があったとはいえ、3季目を迎えたエリック・テン・ハフ監督のチームよりも遥かに高い完成度で攻守に圧倒した。その実力差は3-0というスコア以上のものがあったと感じる。 このリバプールの高い完成度を誇るフットボールを成立させるための“歯車”となったのが、昨シーズンにレギュラーだった遠藤航に代わってスタメンに抜擢されたライアン・フラーフェンベルフだ。 もはや今のリバプールは彼がいなければ成立しないのではないだろうか。それだけ重要な存在となっている。 ●フラーフェンベルフが急成長したポイント スロットからの指導を受けたフラーフェンベルフは昨季と全く違う選手へと成長している。 明確に変わったのが球離れの部分だ。昨シーズンのフラーフェンベルフは主にインサイドハーフで起用され、推進力のある持ち運びでファイナルサードへの進入を助けていた。一方でボールを持ちすぎる癖があり、味方選手にパスを出すタイミングがワンテンポ遅くなることで攻撃が停滞するシーンもあった。 それが新体制となってからは明確に変わっている。狭いスペースでも失わない技術や推進力のあるキャリーなど、彼の長所を残しつつ、理想のタイミングと形で味方選手にパスを預けることができている。 結果的にオフサイドでゴール取り消しとなった6分のシーンは、フラーフェンベルフの真骨頂が発揮された場面だ。相手の最前線と2列目の間でCBからの縦パスを受けると、スムーズなターンでコビー・メイヌーの逆を突き、一瞬で置き去りに。ボックス内に向かって斜めにキャリーすることで多くの相手選手を自らに引きつけ、ベストなタイミングでルイス・ディアスへとパスを出し、その後の“幻のゴール“の起点となった。 こうした一連のプレーは、昨シーズンに多くの出場機会を得ていた遠藤が得意とするプレーではないだろう。「ダイレクトでのターン」「狭いスペースでボールを失わない」「相手に飛び込ませないストライドの大きいドリブル」はフラーフェンベルフだからこそできるプレーであり、この役割をスロットがアンカーに求めるのであれば必然的に彼の重要性は高くなる。 ●懸念だった守備でも抜群の存在感 こうした保持の局面での高い貢献度は前節までも評価されていた。一方で相手が格下だったこともあり、一部ではマンチェスター・ユナイテッドとの今節に向けて、守備時に「フィルター」の役割を担えるのか懐疑的な声もあった。 結論から言うと、フラーフェンベルフの守備時の振る舞いは素晴らしかった。このオランダ代表MFは遠藤のように狙った相手選手からハードなタックルでボールを奪う「潰し屋」タイプの選手ではない。実際にマンチェスター・ユナイテッド戦ではハードなタックルを相手に見舞うことはほとんどなかった。 それでも読みの部分が冴えわたっており、データサイト『Sofascore』によるとチーム最多となる4つのインターセプトを記録。その中でも20分と22分にみせたインターセプトは素晴らしく、マンチェスター・ユナイテッドDFリサンドロ・マルティネスが中盤の選手に出した縦パスをカットし、そこからショートカウンターを発動させた。35分に生まれた先制点の場面もフラーフェンベルフがカゼミーロのパスをカットしたところから始まった。 以前は課題とされていたネガティブトランジションでの働きも素晴らしかった。ストライドが大きいことから帰陣のスピードも早く、セカンドボールの回収も見事。少しでも相手がボール処理を誤ればリーチの長い足でボールを奪い、リバプールが得意とする速攻の起点となっていた。 彼が攻守に担う役割をベンチに座っていた遠藤と怪我で離脱中のカーティス・ジョーンズが代役として担えるだろうか。スロット新監督の下で彼らの能力が伸びる可能性も十分にあるが、フラーフェンベルフはそもそもの素材が違う。このポテンシャルを伸ばすことができる指揮官との出会いでオランダ代表MFは一躍ワールドクラスの仲間入りを果たすかもしれない。 このフラーフェンベルフを筆頭に現在のリバプールは代役が効かない選手が多く、現時点では選手層に若干の不安がある。それは早々に勝利が決定的となっていたマンチェスター・ユナイテッドとの試合でもスロット監督が、チームの構成が変わりかねないコアなメンバーをベンチに下げなかったことが証明している。 しかし、素材型だったフラーフェンベルフをあっという間に主力選手へと引き上げた新指揮官の下であれば、同じく判断に課題を残しているとされるダルウィン・ヌニェスや新加入のフェデリコ・キエーザをさらに一段階も二段階も成長させることができるかもしれない。そうすれば計算できる選手が増え、選手層に厚みが増し、スロット監督の理想のスカッドへと近づいていくはずだ。 まだ第3節終了時点のため時期尚早ではあるが、プレシーズンから現在までの過程を見る限りはリバプールが今シーズンのプレミアリーグの主役になる可能性がある。ユルゲン・クロップの後任というプレッシャーさえはねのければ、トロフィーも獲得できるのではないだろうか。 (文:安洋一郎)
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