「俺がここにいるぞ!」久保建英が示した覚悟…ソシエダの窮地から逃げず、責任を果たすゴール
かけがえのない存在
そうして迎えたバレンシア戦、その時がやって来たのはキックオフから8分後だった。左サイド、バレネチェアのスルーパスを受けたセルヒオ・ゴメスがグラウンダーのクロスを送る。するとフリーでエリア内右に入り込んでいた久保が、左足のダイレクトシュートでネットを揺らした。日本人選手はその後も右サイドで、アランブルと抜群の連係を見せながら存在感を発揮し、バレネチェアの決定機を引き出すなどしている。ソシエダは後半、80分と90分に途中出場のオスカールソンが追加点を決め、久保が切り拓いた勝利への道を踏破。今季公式戦では9試合で2勝目、アノエタではじつに4カ月ぶりの白星を手にしている。 久保はファンが選ぶこの試合のMVPに選ばれたが、試合後の発言がまた素晴らしかった。「MVPに値したのはおそらくセルヒオ(ゴメス)だったと思います。何度もアシストしていましたし」と、3ゴールすべてに絡んだチームメートを称賛。こうしたエゴのない冷静なコメントもするからこそ、ほかの言葉の本気度もうかがえるというものだ。 久保は今夏、リヴァプールに移籍する噂があった。その際に、日本の皆さんがどれだけ大きな期待を抱いたのかは知っている。とはいえ、ラ・レアルを愛する者たちにとっても、久保はかけがえのない存在なのだ。同胞ではないとしても、こんなにも素晴らしい選手、チャーミングな人間と2シーズンを一緒に過ごして、何も感じない方がおかしい。 ……もちろん、分かっている。今夏のル・ノルマンやミケル・メリーノのように、いつか久保も旅立つときがやってくることくらいは。しかしこの日本人は、一部の人々が“泥舟”とも揶揄したラ・レアルのために、懸命に尽くしてくれている。私たちは久保のことを傭兵だと思ってはいないし、久保にもそんな意識はなかった。そのことが何よりもうれしいのだ。
「俺がここにいるぞ!」
ラ・レアルのパフォーマンスは、明らかに上向き始めている。セルヒオ・ゴメスやスチッチの適応ぶりは目を見張るものがあり、オスカールソンもチームに圧倒的に足りなかった得点力を示した。主力の退団などでここまでは絶望しか感じられなかったチームが、ようやく希望のシグナルを送り始めたのである。 次戦はヨーロッパリーグ、アノエタでのアンデルレヒト戦。ベルギーの歴史的クラブとの対決だが、私たちが悲観的に試合を迎えることはない。「最高のラ・レアルはもうすぐ戻ってくるはずです」と久保が言った通り、今は何よりも期待感が勝っている。 そして少なくとも、このラ・レアルには「荷車を引く」を意思を持つ選手が、「俺がここにいるぞ!」と叫んだ人間がいるのだ。 タケ、本当にありがとう。