風間監督解任でも名古屋グランパスに残る不安
しかし、ツボにはまったときには無類の強さを発揮するものの、同じチームなのか、と思えるくらいに脆さを露呈する傾向はまったく修正されていない。就任時から「止める、蹴る、動く」を標榜し、相手ではなく自分たちにベクトルを向け続ける風間監督の指導哲学とも密接に関係している。 フロンターレ時代も、たとえば大黒柱のMF中村憲剛や、前人未踏の3年連続得点王を獲得したFW大久保嘉人(現ジュビロ磐田)が「30歳を超えて、こんなに成長できるとは思わなかった」と風間監督の指導に声を弾ませていた。しかし、フロンターレを率いた5シーズンは無冠に終わっている。 そして、鬼木達監督が就任したフロンターレは、2017シーズンからJ1を連覇した。コーチとして風間体制を支えた鬼木監督がイズムを継承したうえで、攻守の切り替えの速さを中心とした守備の意識を強く注入したことで、前任者が植えつけた攻撃的なスタイルをも一気に花開かせた。 グランパスも選手個々は成長している。2017シーズンのJ2開幕戦から先発に名前を連ねるDF宮原和也とMF和泉竜司、昨夏に加入したFW前田直輝らは成長組の象徴となるし、今シーズンにFC東京から加入した元日本代表のMF米本拓司も、合流から数か月で見違えるほどボール扱いが上達した。 掲げてきた「攻守一体」はボールを保持し続け、相手にほとんど主導権を与えないことで成立する。理想の完成形をひたすら追求した風間監督は、自陣に引いてまず守備を固め、カウンターを仕掛ける各チームのグランパス対策を上回る守備面のプランを残念ながら提示できなかった。
風間監督の理想に合わせて、フロントも補強を惜しまなかった。2017年夏のFWガブリエル・シャビエルを皮切りに、昨シーズンは元ブラジル代表FWジョーとオーストラリア代表GKランゲラックを獲得。昨夏には前田やDF丸山祐市、DF中谷進之介、MFエドゥアルド・ネットらを加えた。 今シーズンも米本やDF吉田豊、MFジョアン・シミッチ、MFマテウスらを獲得。同時に退団する選手も多く、J2を戦った2017シーズンに所属し、いまも戦っている選手はわずか9人だけ。新戦力獲得につぎ込んだ資金に見合う結果を残せないのでは、と危惧されたことも影響しているはずだ。 今夏の即戦力の補強は過去2年とは一転して、日本代表経験のあるDF太田宏介(FC東京)にとどまっている。おそらくは夏の移籍市場が開く前後から風間監督への是非がチーム内で話し合われ、前監督の手腕と可能性を信じてきた小西社長も最終的に折れざるを得なかったのだろう。 小西社長はクラブの公式HP上で「風間監督には、2年半に渡り、これからクラブが目指すべきスタイルの礎を築いていただき大変感謝しています」とも綴っている。しかし、後任人事を見る限りは、風間監督が掲げた「止める、蹴る、動く」を礎として、発展させていけるかは未知数と言っていい。 フィッカデンティ新監督は守備戦術の構築を得意としている。2015シーズンにはリーグで3番目に少ない33失点という堅守を土台に速攻を仕掛ける戦い方を確立させ、FC東京を年間総合順位で4位に導いている。理想を前提とした風間スタイルとは、対極に位置すると言っていい。 26試合を終えた段階で、グランパスはリーグで6番目に多い39得点をあげている。一方で40を数える総失点はリーグワースト5位。8つの白星はすべて先制した試合であり、確かに守備を安定させることが勝ち点を積み重ね、残留争いから抜け出すための最も近い道となるだろう。 しかし、新監督の戦術を浸透させるには時間が足りない。前任者の理想を具現化させるために獲得した選手たちが多い現状を踏まえれば、攻撃から守備へ、ベクトルを自分たちに向ける戦い方から相手へと向けるそれへと時計の針が急激に振れれば、チーム内はかえって大混乱に陥るおそれがある。 フロンターレ時代を振り返れば、年間総合順位で2位に入り、Jリーグチャンピオンシップへ駒を進めたのは最終年の2016シーズンだった。結果を出すまでに時間を要する、というスタイルを承知のうえで風間監督を招へいしたのであれば、今後の展開次第ではフロントの覚悟と忍耐も問われてくる。 当初はオフだった23日は、一転して新体制下での初練習に切り替えられた。遅きに失した感も否めない、フロント内のバタバタぶりも伝わってくる今回の解任劇。賽が投げられたいま、サンフレッチェ広島のホームに乗り込む28日の次節へ向けて、グランパスは規律と組織力を重んじるスタイルへ急ピッチで転換を図っていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)