１９９３年１１月２０日これで見おさめ！　巨人のユニホーム姿で練習する駒田徳広＝川崎市多摩区のジャイアンツ球場で

◇長期連載「実録　竜戦士たちの10・8」（7）【第1章 FA元年、激動のオフ】 　1993年のオフ最大の話題となったFA制度は、選手会がかねて機構側に要求してきた「移籍の自由」を認めるという米国に倣った制度で、日本では当然初めてのこと。各球団とも”FA余波”ともいえる騒動が相次いだ。 　中でも大きく揺れたのは、球団自体がそもそもFA制導入に前向きだった巨人だ。シーズン終了後には長嶋茂雄監督が中日の落合博満の獲得をほのめかすなど、FA補強にどこよりも積極的な姿勢を示していた。 　だが、新たに大物選手が加入すれば当然、自分の居場所を失う選手も出てくる。そんな不安が球団への不信感へと形を変えていった一つの例が、落合とはポジション（一塁）で重なる駒田徳広だっただろう。 　「今のままでは来年、僕の出番があるのかどうか…。そのあたりについて、監督の考え方を聞きたい。それによってはFA宣言することも考えている」 　この年こそ2割4分9厘、7本塁打と不振に終わった駒田だが、1988年からの5年間で4度の3割。92年には27本塁打したプライドがある。駒田が横浜市内の自宅で、報道陣に胸の内を明かしたのは10月27日のことだ。 　これに対し長嶋も反論。川崎市のジャイアンツ球場で秋季練習中の30日、報道陣から駒田との会談について聞かれると、厳しい口調で「戦力として考えているから何も言わないんだ。来年どう使うかを、選手に通告するなど前例がない。筋違いだ」と駒田の要望をハネつけた。 　こうなると駒田も引けなくなる。「監督がそうおっしゃっているのなら考え直します。でも、代打でも戦力ですからね。130試合出るというふうに期待してくださっているのかな」と駒田。両者の溝は埋まるどころか、どんどん深まっていった。 　FAで選手を獲得すれば、その球団は相手球団に（1）FA選手の旧年俸と同額の金額及び、プロテクトした40選手以外で相手球団が希望する選手（2）FA選手の旧年俸の1・5倍の金額（3）当該球団での話し合い（トレードなど）―のいずれかの補償を行うというのが当時のルールだった。 　自分はプロテクトされるのか？　目当ての選手は本当にFAするのか？　選手はもちろん、球団にとっても初めてのことだけに互いに疑心暗鬼にもなり、誤解も生じる。 　そんな中で巨人に勃発した”駒田の乱”。だがそれも今思えば、まだまだ激震への予兆に過ぎなかった。＝敬称略（館林誠）