【解説】バイデン大統領は息子になぜ恩赦を与えたのか?米大統領が持つ絶大な権限、民主党はもうトランプを批判できない可能性も
米国のバイデン大統領は12月1日、虚偽の申請をして銃を購入したことや税金逃れをした罪で起訴され、一部有罪評決が下った次男のハンター・バイデンに恩赦を与えた。しかも、この恩赦は、有罪評決を受けた罪状だけではなく、2014年1月1日から24年12月1日までに犯した可能性のある連邦犯罪すべてを対象として恩赦するという包括的なものであった。 バイデン大統領は、声明を発表し、ハンターが大統領の息子であるせいで選択的かつ不当に起訴されたとし、大統領であるとともに父親でもある自分がこのような決断に至ったことを米国民が理解してくれることを願うとした。ただ、バイデン大統領とその広報担当者は、これまで息子に恩赦を与えることはないと繰り返し述べてきており、それを翻したことになる。
飛び交う〝批判〟の言葉
この恩赦に対しては、波紋が広がっている。バイデン支持者の中には、「がっかりした」とするものが多い。また、トランプが大統領に就任したのちに、不当な恩赦を行っても民主党は批判しづらくなったと悲観する向きもある。 トランプ周辺は、より直截的に今回の恩赦を攻撃している。次期トランプ政権で新組織「政府効率化省」のトップになることが発表されている実業家のイーロン・マスクは、トランプを嘘つきと呼んでいたバイデンが前言を撤回して息子に恩赦を与えたことをさして、「偽善」であるとXに投稿した。 トランプ自身も、「司法の濫用」と批判した。大統領の恩赦の権限は憲法に記されたもので極めて強く、一旦恩赦されたハンター・バイデンを、トランプが大統領に就任した後、同じ罪に問い直すことはできない。
米国法曹界でも分かれる恩赦の範囲
そのような絶大な力をもつ大統領の恩赦の権限とはどのようなものなのだろうか。この恩赦の権限については合衆国憲法批准をめぐる議論の中でも意見が分かれていた。 憲法批准を目指す文書として作成され、憲法制定に関わった者たちの意図を推し量る上で重要なよすがとなる文書である『ザ・フェデラリスト』の中で、ワシントンの側近で初代財務長官となるアレクサンダー・ハミルトンは、恩赦の権限を支持している。一方、バージニア代表として憲法制定会議にも参加したジョージ・メイソンは、大統領自身が示唆した犯罪を許すことになるため恩赦の権限は持たせるべきではないと強く反対した。 メイソンが言おうとしたのは、もし、大統領が誰かに命じて、政敵を暗殺させるなどした上で、その犯人を大統領が恩赦するといったことが可能となってしまうという危惧ではなかっただろうか。つまり、直接的であれ間接的であれ、罪を犯した大統領がその罪を免れることが可能になってしまうという心配だ。 実際、トランプは、大統領は自分自身を恩赦できるという考えを述べている。この問題にはまだ答えは出ていないが、決めるのは連邦最高裁であり、共和党による指名の判事が6対3と多数派を占め、その6人のうち3人がトランプによって指名された判事である現在、トランプの主張が認められる可能性はゼロではない。