パリ五輪には4人の教え子を送り出す! 2大会連続メダル期待の女子バスケ、多くの代表選手を育てた名伯楽の思い
数ある高校スポーツの中でも、女子バスケットボールの井上眞一監督(77歳)ほど結果を出してきた指導者はいないだろう。 井上監督は1986年に桜花学園(愛知)の指揮官に就任すると、初年度のインターハイを皮切りに2022年の国体まで、ウインターカップを含む高校三大タイトルを計71回制覇と前人未到の記録を打ち立ててきた。 多くのOGがWリーグ(バスケット女子日本リーグ)でプレーし、3年前の東京五輪には5人制、3×3に合わせて5人の代表選手を輩出したほか、パリ五輪に臨む5人制の日本代表にも髙田真希、馬瓜エブリン&ステファニー姉妹、山本麻衣という4人の教え子が12人の登録メンバー入りを果たしている。 毎年選手が入れ替わる高校スポーツで、なぜこれほど勝ち続けることができるのか。その理由を探るべく、愛知県名古屋市内にある桜花学園に向かい、井上監督を直撃した。 強豪校といえば、どんなスポーツでも大勢の部員がいるものである。だが、桜花学園の練習を見てまず驚いたのは、3学年合わせても部員が24人しかいないことだ。 「1学年に20人、30人いても、世話できないからね。1学年8人なら、進路を含めて面倒を見ることができる。それに(専用の)体育館はコート1面しかないし、(隣接する)寮のキャパシティを考えても、これが限界です」 少数精鋭だからこそ、コート内外の細かい部分まで目が行き届くのだろう。ちなみに桜花学園のバスケ部は全寮制で、寮母さんらスタッフも全員バスケ部のOGである。 何度も全国を制せば、いくつタイトルを手にしたかなどは覚えていなくても不思議ではない気もする。ただ、井上監督は「71」という数字をしっかり記憶している。 「いちいち数えているわけではないですけどね。でも、優勝を重ねる中、男子バスケの名門・能代工業(現・能代科学技術)が60年から07年にかけて加藤廣志監督と加藤三彦監督のふたりで計58回優勝していたので、その数は超えたいとは思っていました。 なぜ、ここまで勝てたか? 監督なら誰だって勝ちたいでしょ。私はここに来る前に名古屋市内の中学で全国6連覇しましたけど、就任したばかりの頃は『中学で勝っても高校では無理』と言われたものです。いい選手がいなければ勝てないし、選手に恵まれたということです」 バスケではサイズ(身長の高さ)が大きな武器になるだけに、全国で勝つためにはリクルートも重要になる。だが、それだけで勝てるほど甘くはない。井上監督がこだわってきたのはファンダメンタル(基礎)だった。 「例えば、ミスを減らし、勝つためには得点が必要で、シュートをどう決めるかということ。もちろん、守備も大事。基礎は徹底して叩き込む」 また、井上監督が独特なのは、コートでは厳しい口調で指示を飛ばすものの、コートを一歩離れれば、選手とお互いに〝タメ口〟で話すなどフランクに接していることだ。 「自分が学生時代に上下関係や厳しい規律は嫌だったからね。私も寮で食事をするので、ずっとピリピリしていたら疲れるし、楽しくないでしょ。選手とはどうでもいい話もするし、その関係性は昔はお父さんと娘、最近はおじいちゃんと孫って感じです(笑)」 厳格な指導者とハードな練習に耐えかねて退部者が出るのは〝強豪校あるある〟だが、桜花学園では途中退部者はほぼなく、井上監督は「全員にバスケを好きなまま卒業してほしい」と願っている。 いい選手に来てもらうためにユニフォームのデザインなどにもこだわった。 「なるべくカッコいいと思ってもらえるように考えました。だって、いい選手が来てくれなければ勝てないですから」