弁護士試補となった『虎に翼』寅子モデル・三淵嘉子の勤め先は丸ビルの中。「お嬢さん弁護士」と紹介された新聞で淡々と語っていたこととは
24年4月より放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。伊藤沙莉さん演じる主人公・猪爪寅子のモデルは、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さんです。先駆者であり続けた彼女が人生を賭けて成し遂げようとしたこととは?当連載にて東京理科大学・神野潔先生がその生涯を辿ります。先生いわく「修習のあいだ、嘉子も自然と遠慮しながら意見を述べることが続いた」そうで――。 【書影】嘉子が生涯を賭して成し遂げたかったこととは…神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』 * * * * * * * ◆弁護士試補時代の体験 高等試験司法科に合格すると、弁護士試補としての1年半の修習が待っていました。 嘉子は第二東京弁護士会に配属されましたが(弁護士会というのは、弁護士法に基づき、地方裁判所の管轄区域ごとに一つ設置される団体ですが、東京だけ例外的に複数の弁護士会があります。強制加入団体で、弁護士は必ず所属しなくてはいけません)、当時の試補は無給で(裁判官、検察官になるための司法官試補は給与の支給がありました)、修習のために弁護士会に対して国から交付される経費の一部を、手当としてもらえる仕組みになっていました。 とはいえそれはかなり安く、当時の私立大学出身者の初任給が月45円くらいのこの時代に、嘉子が受け取っていた月の手当は20円程度でした。 戦前は弁護士の地位が裁判官・検察官と比べて低く、このようなところにも露骨な差が設けられていました。
◆自然と遠慮しながら意見を述べてしまう 嘉子は、丸ノ内ビルヂング(丸ビル)に入っていた仁井田益太郎の弁護士事務所で修習しました。 仁井田は裁判官・京都帝国大学教授・東京帝国大学教授を歴任した人物で、第二東京弁護士会の創立者・会長でもありました。 修習のあいだ、討論の場で年上の男性たちに対して意見を言うことは、なかなかやりにくいことでした。 いくら女性に門戸が開かれたといっても、社会的には女性に対して厳しい目が向けられている中で、嘉子も自然と遠慮しながら意見を述べることが続きました。
【関連記事】
- 「初の女性弁護士」誕生が大きく報じられるも『虎に翼』寅子モデル・三淵嘉子自身は意外にも冷めていて…「法律の仕事に従事するかは何とも言えません」
- 『虎に翼』シンガポールで生まれ「普通のお嫁さんになるな」と育てられた寅子のモデル・三淵嘉子。東京帝大卒のエリート父・貞雄が西麻布に居を構えるまで
- 明大卒業、いよいよ受験へ!占いで「受かる」と言われるも出来の悪さに玄関で泣き崩れ…『虎に翼』寅子モデル・三淵嘉子<高等試験司法科合格>への道のり
- 『虎に翼』寅子モデル・嘉子は高校に続き大学でも<卒業生総代>に…成績優秀で男子からはカンニングをお願いされることも
- 『虎に翼』「女性が法律を学ぶなんて!」法事で不在だった母から入学を厳しく反対されるも…寅子モデル・三淵嘉子が進んだ明治大学の<先駆的姿勢>