『カメ止め』再来の呼び声高い『侍タイムスリッパー』の魅力に迫る! 安田淳一監督&ヒロイン・沙倉ゆうのを直撃
■予想以上のヒットに「何事?」とビックリ!も秀逸な脚本は撮影前から周囲が太鼓判
『カメ止め』ブームの再来か?―あの盛況を想起させる自主映画が、2024年、日本の映画シーンをにぎわせている。その名も『侍タイムスリッパー』。監督業と農家という二刀流で活動する安田淳一監督の「自主映画で時代劇を撮る」という試みに「脚本がオモロいから、なんとかしてやりたい」と東映京都撮影所が協力。10名足らずのロケ隊が本家、東映京都で撮影を敢行し完成した本作は、2023年10月の「京都国際映画祭」でプレミア上映されると万雷の拍手と歓声に包まれ、今年7~8月のカナダ・モントリオールの「ファンタジア国際映画祭」では、見事、観客賞金賞を受賞した。日本にとどまらず世界でも観客の折り紙付きとなった本作の魅力と人気の秘密に迫るべく、安田淳一監督、ヒロイン役の沙倉ゆうのに話を聞いた。 【写真】映画のヒットに「あたふたしている感じです(笑)」 『侍タイムスリッパー』安田淳一監督&ヒロイン・沙倉ゆうの 撮りおろしカット 幕末の侍が、あろうことか2007年の時代劇撮影所にタイムスリップ。「斬られ役」として第二の人生に奮闘する姿を描く本作は、コメディーでありながら人間ドラマ、そして手に汗握るチャンバラ活劇でもある。主人公・高坂新左衛門をNHK大河ドラマの常連でもある実力派俳優・山口馬木也が演じ、高坂の敵(かたき)役を冨家ノリマサが演じた。そして、2007年の日本にタイムスリップした高坂に手を差し伸べる時代劇の助監督・山本優子役を沙倉ゆうのが好演。そんな沙倉は役だけでなく、実際の撮影でも助監督、制作、小道具などスタッフとしても活躍したという。沙倉、そして一人11役以上もの役割を担った安田淳一監督の視点から、ヒットの要因となった本作の魅力について迫ってみたい。 ――『侍タイムスリッパー』の大ヒットを受けて、現在の率直なお気持ちを聞かせてください。 安田淳一監督(以下、安田):もうあたふたしている感じです(笑)。つい1ヵ月ぐらい前までは単館で上演していたんですが、すごい勢いで今172館まで上映館がふくらんでいるんです(※10月14日現在、公開決定は251館に)。展開が早すぎて、「何事?」とびっくりしています。 沙倉ゆうの(以下、沙倉):私も素直にうれしいですけど、驚きの方が大きいです。8月17日初日に池袋シネマ・ロサ(東京)で公開された時は関西での上映は全く決まってなかったんです。スタッフやキャストのほとんどは関西在住なので、「もうちょっと待ってて。秋ぐらいには上映するから」という話をしていたんですが、舞台あいさつで東京に来てからは関西に帰るタイミングもなくて…。そうしているうちに関西での上映も始まっちゃったので、そのスピード感に驚いています。それと2017年にこの映画の企画がスタートしてから、完成をずっと待ってくだっている方がたくさんいたんです。その方たちに観てもらえたのがうれしくて、舞台あいさつで思わず泣いちゃいました(笑)。 ――『カメ止め』ブームの再来とも言われていますが…。 安田:『カメ止め』ブームの再来だと思われているのは光栄ですね。『カメ止め』がヒットした時に、インディーズ映画でもここまでお客さんが喜んでいっぱい観てくれるということに僕も勇気をもらいましたから。 沙倉:『カメラを止めるな!』は単館から始まって全国で公開されて、さらに日本アカデミー賞話題賞も獲った作品。私はこの作品を撮っている時からずっと「日本アカデミー賞に持っていきたい」という思いがあったので、すごくうれしいですね。 ――そんな大ヒットとなっている本作の主演・山口馬木也さんは、「脚本が良かったから出演を決めた」というお話をされていました。山口さんに出演を即決させた魅力的な脚本はどのように生まれたのですか? 安田:京都ヒストリカ国際映画祭で映像企画市という時代劇の企画をコンペ形式で競うコンテンツへの参加のお話をいただいて、何をやろうかと考えた時に、侍が現代にやってきた面白おかしいCMを思い出したんです。それと(安田監督の前作)『ごはん』(2017年)に斬られ役で有名な福本清三さんに出演してもらったご縁もあって、侍と言えば…福本清三さんの“斬られ役”というイメージが僕の中であったんです。それで、現代にやってきた侍が撮影所で斬られ役になっていくという話は面白そうだなと思いました。そこから、『蒲田行進曲』とかの要素を足してプロットを書いて周囲に話してみたら、「安田さん、それ面白いから撮った方がええわ」と言われたんです。8ヵ月ぐらいかけて上がった脚本を映画関係者の皆さんに配ってダメ出しを聞こうとしたら、「そのまま撮ったら面白いんちゃうかな?」と皆さん口々言ってくれて、動き出しました。 ――沙倉さんは、脚本を読んでみていかがでしたか? 沙倉:(山口演じる)新左衛門の思いや覚悟がぎゅっと詰め込まれていて、本を読んだだけでも感情移入してしまって泣いてしまいましたね。