なぜ2年前にJ2転落危機にあったヴィッセル神戸は黄金期を迎えているのか…ガンバ大阪との天皇杯を制し3大タイトル独占の可能性
今シーズンに川崎フロンターレから完全移籍で加入し、リーグ戦ではすでに自己最多を更新する2桁の10ゴールをあげている宮代が言う。 「ヨッチくんから中央でパスをもらおうと思ってポジションを取っていたけど、大観衆の声援もあってなかなか声も届かなかったなかで、ヨッチくんがシュートを選択しました。結果論ですけど、最初の動きがゴールにつながってよかったです」 先に現役を引退したスペインの至宝、MFアンドレス・イニエスタ(40)に象徴されるように、神戸は大物外国人選手を中心に、一時は「バルセロナ化」と呼ばれたパスをつなぐサッカーを志向した。 しかし、2022シーズンは代行を含めて4人の監督が指揮を執る大混乱のなかで低迷し、降格危機に直面しながら何とか13位で残留した。 迎えた昨シーズン。引き続き指揮を執った吉田孝行監督(47)は、スタイルの180転換を決断した。前線からの守備を繰り返し、そのうえで走れて、ハードワークを厭わない選手を中心に、ボールを奪えばまず大迫に預けるサッカーを開幕から貫いたなかで、居場所がなくなったと感じたイニエスタは昨年7月に契約を半年残して退団した。 昨シーズンは大迫、武藤、酒井、そしてイニエスタからキャプテンを引き継いだMF山口蛍(34)の元日本代表カルテッドが最後まで好調を維持。11チーム目の優勝を果たしたなかで、若手や中堅が成長を遂げる好循環も生まれた。 先述の佐々木は練習でいいプレーをするたびに、大迫からこんな檄を飛ばされた。 「続けろ。それを続けろ。一回だけで終わるな」 迎えた今シーズン。補強も「大型」といった形容詞がつくものではなく、宮代や元日本代表MF井手口陽介(28)ら、チームをさらに進化させる適材適所に絞られた。井手口は山口が怪我で長期離脱した夏場以降でインサイドハーフに定着。大迫を真ん中に右の武藤と3トップを組む宮代は、新天地で得る刺激をこう語る。 「自分は感覚的にゴール前へ入っていくのが多かったですけど、いまではサコくんだったらこう動くだろう、といった日々の積み重ねの部分もあります」 走れて、球際に強くて、それでいてテクニックも高い。現代サッカーに通じるスタイルのなかで、ベテランの域に達した選手たちが背中やプレーを介して経験を伝えている神戸は、どのような試合展開にも動じない強靱なメンタリティーを含めて、国内三大タイトルを常に狙えるチームへ、まさに現在進行形で変貌を遂げつつある。