がん克服復帰戦を劇的適時打で決めた阪神・原口文仁がヒーローインタビューで伝えきれなかったものとは?
不屈の男が帰ってきた。 4日、千葉・幕張のZOZOマリンで行われた交流戦のロッテ対阪神。9回、阪神がリードを4点差に広げ、ネクストバッターズサークルに中谷に代わって背番号「94」が姿を現すとスタンドから歓声が起きた。 梅野がマウンド上の新外国人のレイビンにクイックがないことを見逃さず二盗、三盗と決め、一死三塁となって代打・原口がコールされた。阪神ファンは立ち上がった。万雷の拍手。ロッテファンも一緒になって手を叩き、その声援は、ZOZOマリン全体を包む祝福の輪となって広がっていく。 「しっかりと目に焼き付けるように打席に入りました」 原口は上を向き観客席を見渡した。 「この日を待っていた」 「お帰りなさい!」 ファンの持つサインボードが揺れている。 もう感激して泣いている人もいた。 彼は打席に入る前にヘルメットを脱いで虎党で埋まるライトスタンドに向かって深々と頭を下げた。 「ロッテ、タイガースファンの皆さんが声援をくれたので、ここからまた野球人生、新しいものがスタートするという意味でお辞儀をさせてもらいました」 レイビンのストレートは155キロを超える。ナイターに慣れていない原口にはハンデはあった。 「梅野が盗塁を決めてくれていたので自分のバッティングをするだけの場面だった、今までやったきた通りに打席に立った」 原口は初球の外のスライダーから打って出た。 タイミングが合わずにファウル。 次のスライダーも振った。またファウルだったが、原口の代名詞とも言えるフルスイング。それは気迫にあふれていた。カウント1-2からストライクゾーンの真ん中に入ってきたスライダーだった。 「最後に甘いボールが来たので、そこをしっかり」 強引にとらえた打球は、ラインドライブの弾道を描きダイレクトでレフトフェンスを直撃した。 「打球的には(レフトの)頭を超えるかな、という勢いで走りました。アウトになるかな、とも(思ったが)強引にいっちゃった」 クッションボールをすぐさばいた菅野の二塁への送球はクロスプレーのタイミング。原口は「2、3年ぶり」というヘッドスライディングで二塁ベースへ滑り込んだ。鬼気迫る“ヘッスラ”が菅野の手元を狂わせたのだろう。送球は大きくそれた。 1軍復帰最初の打席が「8-3」と勝利を決定的にするドラマチックなタイムリーツーベースになった。 「1軍は素晴らしい舞台。いい結果が出て良かったです」 代走が出てベンチへ戻る原口をサプライズが待っていた。ロッテ側が、その記念ボールを転がして戻してくれたが、それを矢野監督が拾って原口に手渡したのである。 「ファンの人の声援もベンチの皆さんの祝福も嬉しかった。矢野さんがボールを手渡してくれたのはサプライズでした」 5月8日にウエスタン・リーグの中日戦で代打で復帰したときの方が緊張したというが、「終わってみると胃がヒリヒリ痛くなった。やっぱり緊張感はあったと思う」と笑顔で感動の復帰戦を振り返った。