タイ伝統の「灯ろう流し」が招くゴミ問題 今年も回収50万基…“オンライン化”もある祭り事情
毎年11月初旬の満月の夜、タイ全土で行われる「ロイクラトン」。ろうそくの光が揺れる灯ろうを川や池、運河に願いを込めて流す祭りで、今年も11月15日の夜に行われた。13世紀から続くとされる伝統行事だが、最近は思わぬ環境被害を招いているようで……。バンコク在住ライターの澤野綾香氏がレポートする。 【写真】魚の餌になると期待されるも…逆効果だった「お麩」灯ろう ほか ***
タイで最も美しい祭りといわれる「ロイクラトン」を知る日本人は多い。日本の灯ろう流しや精霊流しに似ているからだろうか。日本のそれは先祖や死者の魂を弔うものだが、タイのロイクラトンは神への祈りの要素が強く、豊年祭の意味合いもある。 さらには本来、川を汚してしまったことへの謝罪の目的もあるというが、皮肉にも、首都のバンコクでは、この灯ろうが深刻なゴミ問題に発展している。あまりに多くの灯ろうが流されるため、川や池の水面に溜まってしまうのだ。祭り翌朝のロイクラトンのゴミは、運河を航行する船を妨げるほどになってしまう。 バンコクの行政庁は、毎年、灯ろうの回収に乗り出している。たとえば2022年に回収されたその数は、57万2602基……。これは行政側が回収した数にすぎず、実際はその倍以上の数の灯ろうが川や池、運河のゴミになったといわれる。
魚の餌になる「麩」「パン」灯ろうも登場したが…
昔の灯ろうは、輪切りにしたバナナの幹の周りをバナナの葉で飾り、そこにろうそくや線香を立てるスタイルだった。しかし最近はバナナの幹の代わりに発泡スチロールを使うことが多い。ロイクラトンゴミ問題は、海洋汚染や地球の温暖化といった環境問題にまで発展することになった。 2023年には、環境団体の呼びかけもあり、魚の餌になる麩やパン素材、氷で作られた灯ろうが登場した。しかしコロナ禍明けの高揚感も手伝って、ロイクラトンは前年にも増してにぎやかになり、回収された灯ろうは63万9828基まで増えてしまった。
そのなかには多くの麩やパンでできた灯ろうが含まれていた。たしかに川や池の魚の餌にはなったが、いかんせん灯ろうが多すぎる。とても食べきれる量ではない。残った麩やパンが水のなかで腐敗し、水中の酸素が少なくなり、大量の魚が死んでしまったのだ。 環境問題に関心が高い市民からは、ロイクラトンを中止せよ、といった意見もある。環境保護団体で活動をつづけるPさん(34)は、「伝統を守りつつ、違う方法でロイクラトンを続けることを模索してます。でもかなり難しい」と語る。 今年のロイクラトンを前に、行政サイドはこんなPRをつづけた。 「麩やパンでできた灯ろうは流さず、自然素材の灯ろうにしてほしい」 バナナの幹と葉やココナツの葉でつくった昔ながらの灯ろうに戻すべき、というのである。同時に、公園の池に流すときは、1家族1基までというルールもつくった。