石破首相の言動の変化が問われた党首討論:議論は政治資金問題に集中
10月9日に、石破政権下で初の「党首討論」が行われた。野党が解散前の本格論戦を求めたため、討論時間は通例の45分から1時間20分へと延長された。石破首相と野党4党首との議論は、政治資金問題と衆院選挙に集中した。各党首討論のなかで、共通した重要テーマとなったのは、石破首相が自民党総裁選を通じて主張していたことと、首相になってからの行動とに違いがある、という点だ。 例えば、石破首相は自民党選挙中には、「すぐ解散はしない」と話し、臨時国会で予算委員会を開き、政治資金問題を中心に野党との議論を十分に行った後に解散する考えを示していた。しかし実際には、戦後最短となる首相就任8日後の衆院解散を決めた。 立憲民主党の野田代表は、いわゆる裏金問題(政治資金報告書不記載問題)をうやむやにしつつ、政権発足直後の国民支持率が高いうちに選挙を行い、早くみそぎを済ませてしようとする「裏金かくし解散」と強く批判した。 政治改革についても、自民党総裁選の当初には、石破氏は、政治資金報告書に不記載の問題があった自民党議員の公認には否定的な意見を述べていたが、首相になった後には非公認に慎重となり、最終的には世論の批判を受けて、12人を非公認とした。しかし問題議員の多数については公認を認める決断をしたことを、立憲民主党の野田代表は批判した。 また平成元年の自民党政治改革大綱に関わった石破氏は、その趣旨に沿ってなぜもっと踏み込んだ政治改革を実施しないのかと、変節ぶりを批判する意見が、維新の会の馬場代表からは聞かれた。 馬場代表は、それ以外にもアジア版NATO、金融所得課税見直しなど、石破首相が総裁選で主張していたことを、首相になってからはトーンダウンしたことも批判した。国民は、石破氏が党内野党であり、自民党を内から変えてくれるとの期待をもって支持してきたが、実際に首相になると、単なる自民党の非主流派だったとの見方をし始めている、と馬場代表は指摘した。そのうえで、石破首相の意見はころころ変わるとして、今回の解散を「猫の目解散」と呼んだ。 国民民主党の玉木代表も、「石破総理が変わってしまった」と何度も指摘し、石破氏が自民党を変えてくれることを国民が期待し、それがゆえに国民からの支持率が高かったことで石破内閣が誕生したが、首相になった後に言動が変化してしまったことで、それが新たな政治不信を生んでいるのではないかと批判した。 経済問題については、共産党の田村委員長が、賃上げのために中小企業を直接支援すること、労働時間の制限の2点について石破首相に意見を求めたことにとどまった。党首討論では議論されなかったが、石破首相が従来から主張してきたアベノミクスの問題点についても、首相就任後はトーンダウンし、またアベノミクスの功罪の検証、とも言わなくなった(コラム「石破政権はアベノミクスをどう評価したか(衆院代表質問)」、2024年10月8日)。また、自民党総裁選では、円安による物価高の弊害を抑える観点からも、石破首相は、日本銀行の利上げを支持する姿勢であったが、総裁選に勝利した直後に円高株安が進んだことなども影響し、首相就任以降は、日本銀行の利上げに慎重な姿勢を滲ませる発言を行った。 このように、選挙、政治改革、経済政策などの各面で、首相就任を挟んで石破首相の言動が変化したことについて、党首討論では「首相となれば自分の考えだけで政策を決める訳にはいかない」と、石破首相は説明している。国民はこうした説明を受け入れるのか、あるいは期待したものと違うと考えるのか。石破首相のいわゆる「変節」は、選挙結果にも大きな影響を与えるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英