「過激化して表紙がどんどん小さく」アキ・カウリスマキからアリ・アスターへ大島依提亜のパンフレットに起きた“変化”
安価な板紙を表紙に使って風合いを出す
――そして、さきほども話題にのぼった『希望のかなた』。これも前作に続き、難民問題をテーマにした物語なんですが、オフビートでユーモアあふれる映画でした。 大島 主人公が突然お寿司屋さんを始めるくだりがあって。みんなで浴衣やはっぴみたいなものを着て、酒屋さんとか八百屋さんがするような前掛けをつけるんですよ。 ――「最高級品 大勉強の店」と書いてある藍染めの前掛け(笑)。 大島 プロップデザインとは思えないなあとネットで検索してみたら、案の定売ってたんです。それで、パンフにも前掛けのページを入れたんです。布っぽい手ざわりの紙を使ってフェティッシュな感じで。そして、それがあまりにも面白いから、劇場でエプロン自体を販売することになったんです。 ――その「遊び」は川勝さんっぽい(笑)。 大島 でしょう。川勝さんなら絶対そうするなって。エプロンの業者さんはビックリしたと思いますよ、急に大量発注があったから(笑)。 ――あはははは。 大島 カウリスマキがどういうルートでこれを手に入れたのか、いまだにナゾですけれど。 ――そして、この映画の後に引退宣言をして、『枯れ葉』で復活、と。 大島 このシリーズのパンフについて、ちょっとマニアックなことを言うと、もう1個、裏のルールがあるんです。表紙はいつも板紙(いたがみ)を使っているんですが、大和板紙のものを使っているんです。 ――ほほ~。 大島 そもそも板紙って、お菓子のパッケージなどに使われる紙で、映画のパンフレットにもちょうどいい厚さなんです。最近は、一般の書籍の表紙にも使用されることが多くなっていて。というのも、いわゆるハードカバーといわれる上製本はコストがかかるので、並製でコストを下げる場合、安い板紙を使うと具合がいい。だから需要が高まってきている。ぼくは、最初はエースボールという板紙を『過去のない男』で使い、それからはずっとカウリスマキはこれでと決めているんです。 ――というか、そもそもなぜ板紙だったんですか? 大島 「プレフューズ73」名義のスコット・ヘレンのCDジャケットで使われているのを見たのが最初だったんです。面白い紙を使ってるなあと思って調べてみたら、大和板紙のエースボールだとわかった。安いし風合いもあるからちょうどいいなって。あと、川勝さんが90年代初頭のミニシアターブームのときに、よくこういったボール紙を使ったパンフを作っていたじゃないですか。 ――ありましたね。絵本型とか、お菓子のパッケージ型とか。ああいう紙を使うと普通のブックレットよりも肌ざわりや質感があるので、モノ感が出てきて愛着が湧くんです。 大島 そう。安価なのに素敵になりますよね。 大島依提亜(おおしま・いであ) アートディレクター。映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。最近の仕事に、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『カモン カモン』『怪物』、展覧会「谷川俊太郎展」(東京オペラシティアートギャラリー)「ムーミン展」など。
辛島いづみ