低金利がウリの「ネット銀行」が“頭金”にこだわり始めた裏事情 「住宅ローン」利用者はそれでも低金利を追うべきか
いま住宅購入者の実に7割が変動金利でローンを組むと言われるが、日銀は今夏にも政策金利を引き上げるのではという見方が広がっている。前編では金利上昇が住宅価格に与える影響について解説した。後編では金利の先高観が浸透する中、銀行がローン契約時の「自己資金比率」に応じて金利を引き下げる、という新しいトレンドが生まれた背景を深掘りする。 【図を見る】4銀行で比較 自己資金の積み増しで得られる「金利引き下げ幅」 (前後編の後編/前編の続き) ***
低金利を売りにしてきたネット銀行に変化の兆し
変動金利の「適用金利」は、基本的に以下の式で表すことができる。 「基準金利」-「引き下げ幅」=「適用金利」 ただ、「基準金利」と「引き下げ幅」は銀行がそれぞれ独自に定めるもので、バラツキも大きい。 例えば大手メガバンクの三菱UFJ銀行では、現時点での変動型の基準金利は2.475%で、ここから2.05~2.13%の引き下げ幅が設定され、適用金利は年0.345~0.425%となる。 ネットバンク大手の住信SBIネット銀行では、現時点の基準金利が2.875%と三菱UFJを上回るが、引き下げ幅が年2.555%と大きいため、適用金利は年0.32%となる。 「ネット銀行は原則的にリアルな窓口を持たず、手続きをWEB上で完結させるなどし、経費を圧縮しています。そうして捻出した予算を、金利の引き下げや団信の保障内容の拡充に使って、他行との差別化を図っています」 そう解説するのは、前編に続き住宅ローンアナリストの塩澤崇氏だ。 ただ最近、これまで低金利を売りにしてきたネット銀行の動きに変化が見られる。前述の住信SBIネット銀行は5月1日から基準金利を0.1%引き上げており、こうした動きは他行にも広がりつつある。 さらに最近見られる傾向として、ローン契約時に「最優遇金利」の適用を受ける条件に、一定の自己資金比率を求める銀行が増えてきている。
今後、最優遇金利の適用ハードルが上がっていく?
「例えばSBI新生銀行は自己資金比率10%で0.05%の引き下げ、PayPay銀行は同じく10%で0.065%の引き下げ、住信SBIネット銀行では自己資金比率20%を条件に0.032%の金利引き下げを設定しています。自己資金比率によって適用金利が変わる商品設計はフルローンで借りるのが一般的になったため下火となっていましたが、最近は増えてきている印象です」(塩澤氏) 仮に1億円の“億ション”を購入する場合、自己資金比率10%なら1000万円、20%なら2000万円をローン契約時に頭金として用意できないと、「最優遇金利」での融資を受けられないので、なかなかのインパクトになりそうだ。一体なぜ、このような動きが広がっているのだろうか。 「大きくは2つあると思います。1つ目はマーケティングの強化です。金利競争は限界に近づいているため、差別化の手段として、自己資金の条件付きではあるものの他行よりも低い金利を提示し、大量集客したいという狙いです。ただし、審査申込後にユーザーが離脱するリスクは一定程度あるでしょう」(塩澤氏) 実際には、自己資金を出さずに全額をローンでまかなう「フルローン」が一般的であるため、優遇金利を自己資金の条件付きにしている銀行では、審査承認後に提示される金利が表示金利よりも高くなるケースが想定される。それを見てがっかりしたユーザーがその銀行との契約を取りやめる可能性がある、ということだ。 「もう1つは銀行が抱えられるリスク総量の問題です。銀行業は貸し倒れリスクを抑えつつ、いかに多くのローンを貸し付けて儲けるかというゲームです。最近は低金利のため、金利収益ではなく融資手数料が儲けの源泉になっているとの話も聞きます。つまり、収益を上げるには新規の貸出しを毎年数多く実行し、融資手数料を積み上げる必要があります」(塩澤氏) 融資手数料は元本の2%を取る銀行が多い。1億円のローンを組む場合は、金利の支払いとは別に200万円を支払うことになる。 「リスクを抑えつつ新規の貸出件数を伸ばす上で鍵となるのが、実は自己資金なのです。自己資金が多い住宅ローンは貸し倒れリスクが低い。ゆえに、銀行はリスク総量を抑えながらローンの新規貸出件数を増やすことができます。銀行が取れるリスク総量は国際的なルールで上限が決まっていますので、自己資金を入れてくれるユーザーは実は銀行にとってはありがたい存在でもあるのです」(塩澤氏) もともとネット銀行は条件面が優れる代わり、審査が厳しいことで知られ、一説によると本審査をクリアできるのは5~6割だと言われている。自己資金比率の引き上げは、貸し倒れのリスクをさらに圧縮したいという銀行の思惑があるのかも知れない。