「AIゆりこ」が火ぶたを切った超デジタル時代の選挙はこうなる!!
■AIを活用しようが人柄や雰囲気優先? とはいえ、今の日本の政治を取り巻く現実や、既得権益を守ろうとする人たちの影響力を考えれば、こうした「超デジタル時代」の最新技術が今すぐ、世代別選挙制度の導入や選挙区制度の廃止など、既存の選挙制度の抜本的な見直しにつながるとは考えにくい。 一方で、今回の都知事選が示したように、今後も生成AIなどのデジタル技術が、こうした最新技術などまったく想定していない旧態依然とした公職選挙法の下で、選挙戦の武器として野放しで導入されるようになれば、そのネガティブな影響もまた大きいのでは? 「まず、選挙の公平性の問題があります。よく『ネットやデジタル技術の発達は社会をより平等にする』といわれますが、現実は必ずしもそうではない。 例えば、規制がないまま、資金力に恵まれた候補が高度なAIを使ったアバターを大量に生成してメタバース上で大規模な選挙活動を展開すれば、資金力が選挙結果を左右する世界になる。 今のポスターの掲示板などの仕組みはアナログで制約も大きいですが、候補者が掲示できる場所を均等に用意することで公平性を担っている面もあり、デジタル技術がそんな公平性を揺るがす可能性も考慮しなければなりません」 また、そもそも有権者は投票先を政策で決めているのか、という疑問もある。 「多くの有権者は候補者の主張を慎重に吟味して比較検討するのではなく、所属政党やその候補が信頼できる人物なのか、という人柄優先で投票先を選んでいるのではないか......ということ。 そうした判断においては、候補者の表情、立ち居振る舞いや話し方、あるいは、今、米大統領選でバイデン大統領に向けられているような『政治家としての激務に耐えられるだけの気力や体力があるのか?』といった評価など、リアルな候補者自身から伝わる雰囲気もまた、重要な検討材料になっている。 技術的には、高度な学習機能を持つAIアバターの『AIゆりこ』と『AIれんほう』が48時間ぶっ続けでバーチャル激論を戦わせる......みたいな近未来もありえるわけですが(笑)、現実には実際の候補者の雰囲気で選ぶ有権者も多いことを考えると、候補者本人ではないAIアバターやチャットボットが活躍する近未来の選挙戦はまだ先の話かもしれません」 しかし、技術が制度を追い越すのが常だ。 「都知事選でもネットが大きな影響力を持つことが可視化されたし、今後もデジタルプラットフォームは活用され続けるでしょう。そして生成AIが進歩すればするほど、例えばディープフェイクとして悪用され、誤情報の拡散に使われかねません」 超デジタル時代の選挙においては有権者のリテラシーがますます重要になりそうだ。 取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社 iStock