無安打で迎えた決勝、僕は甲子園を最後に楽しめた センバツ
第96回選抜高校野球大会は31日、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で決勝があり、健大高崎(群馬)が3―2で報徳学園(兵庫)に競り勝ち、春夏通じて初の甲子園優勝を果たした。 【写真まとめ】高校野球U18候補選手に選ばれた選手 惜敗した報徳学園のベンチが最も沸き返った瞬間だったかもしれない。一回1死から福留希空(のあ)が中前打で出塁した場面。なぜなら、彼は準決勝までの4試合で、レギュラークラスで唯一ノーヒットと沈黙していたからだ。 苦難の始まりは1回戦の愛工大名電(愛知)戦。打席から見えるマウンドやスタンドの眺めが、なぜかしっくりこない。スイングがうまくいかなくなり、悩みが始まった。打ち込みに取り組むなどして、必死に努力したが、状態は上向かない。 仲間は快音を響かせるのに、自分は取り残されるばかり。もちろん守備や走塁では貢献していたため、先発出場は続いたが、やはりつらい。「(スタメンから)代えてくれ」。思わず心の中でつぶやいた。 「野球人生で一番苦しかった」。支えは恩師であり、家族。準決勝の中央学院(千葉)戦の七回。二ゴロに倒れた後、大角健二監督に呼ばれた。「お前、こんないい球場で野球できるなんてことないぞ。楽しめ」 決勝を前に、通信アプリで父親の譲二さんに連絡すると、返事はやはり「楽しめ」だった。 そして、決勝の第1打席。タイミングを合わせることだけを考えてスイングすると、中堅に弾む念願の初ヒット。「ありがとうという気持ちだった」 チームの結果は2年連続での決勝敗退。悔しさはつのる。ただ、もらった言葉には応えられた。「楽しめた。最高の景色でした」 どんなに選手の成績が良かろうが、悪かろうが、甲子園は目指す人を選ばず、そこにあり続ける。だからこそ、福留も他の球児たちも聖地への歩みを止められない。【岸本悠】