阿川佐和子「お礼状下手」
どれがいいかなあ。この花はいつの季節だ? 桜の絵葉書は使えないか。飛行機の葉書は古すぎるかもね。この絵はもったいないから他の人のために取っておこうか。迷う。 ようやくこの一枚と決め、文面を考える。 「遅まきながら、あけましておめでとうございます。昨年暮れにはけっこうなお品を頂戴し、心からお礼申し訳ございません」 しまった、お礼が遅れたことをお詫びしなければと思うあまり、書き損じた。修正液はどこだ? 修正液が乾くまで、次の文面が書けない。やっと書き上げてみれば、今度は切手を探すことになる。こうして数枚書くと、すっかり疲れて、絵葉書さん、また明日。 ついでに告白すると、書きそびれた年賀葉書がまだ十七枚ほど残っている。これを使おうかどうしようか。もう二月ですけどね。
阿川佐和子