『ミシュランガイド』星の秘密 正社員が調査で週10食 『ミシュランガイド』(上)
レストランガイドの代名詞的な『ミシュランガイド』は星マークを用いた評価でも有名で、「三つ星」といった形容の語源とされる。1926年に星印を使い始めてから、もうじき100年。では、その「星」はどのような評価に基づいて決められているのか。星を生み出す人たちを訪ねた。 自動車に乗る人にはおなじみだが、「ミシュラン」はもともとタイヤのブランドだ。日本で『ミシュランガイド』を編集・発行しているのも仏ミシュランの日本法人である日本ミシュランタイヤ(群馬県太田市)。どこかの出版社や編集プロダクションに任せているのではなく、社内に編集部を置いて、自ら発行母体になっている。 そもそもタイヤメーカーがなぜレストランガイドを企画したのかは割と広く知られている。自動車用の空気入りタイヤを考案したミシュラン兄弟がゴム製品の会社をフランスで創業した1889年当時はまだ道路が整備されていなかったのに加え、どこで食事をしてどこで泊まればよいのかといった情報が乏しかった。 不安を感じないで、安全に遠くまで出掛けてもらえるよう、兄弟はタイヤの修理法や修理工場、泊まり先などを書き込んだガイドブックを作った。1900年に最初のフランス版を発行。当初は無料で配布していたが、1920年からは有料になった。1926年からはおいしい食事を出すホテルを星で評価し始めた。 誰もが知る「三つ星」だが、定義を正確に言える人はそう多くないだろう。正しい定義は「そのために旅行する価値のある卓越した料理」だ。一つ星は「近くを訪れたら行く価値のある優れた料理」で、二つ星は「遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理」と位置付けている。ミシュランガイド・RPWA事業部の三輪唆矢佳執行役員は「車での移動にまつわる表現を用いているのはタイヤメーカーらしいところ」と説明する。 この定義が登場した1930年代初めから、専門の調査員(インスペクター)が匿名で訪問する制度が始まった。匿名調査はミシュランガイドの信頼を支える背骨のような仕組みだ。「トレーニングを受けた正社員が一般客として予約して、きちんと代金を支払う形で調査に当たる」(三輪氏)。だから、特別扱いはない。「しっかりした独立性が信頼を裏付ける」(同)からだ。 インスペクターごとに評価基準がまちまちなのでは、ガイドブック全体の整合性を保てない。味覚には個人差が大きいのに加え、嗜好に伴う評価のずれが生じやすい。だが、ミシュランガイドの場合は「世界の全員が同じメソッドのトレーニングを受けることによって、評価基準をそろえている」(三輪氏)。 トレーニングは主にフランスで受ける。日本のインスペクターもフランスまで出向いてメソッドを学ぶ。さらに、世界各地で学び、海外インスペクターも日本で学ぶことがあるという。そうしたトレーニングを重ねて、自らの好みに左右されない評価技術を身につけるのだ。