<エジソンの時代から変わらない発電方式>エネルギー、発電で200年間大きなイノベーションは起こらなかった
需要量と供給量は一致させなければならない
火力あるいは原子力発電設備は燃料がある限りは発電できるし、出力の調整も可能だ(ただし、原子力発電設備は日本では発電量を常に一定に保つ定格で運転されている)。電気は需要がある時に必ず需要量と同じ量を発電しなければ(同時同量と呼ばれる)周波数が乱れ、最悪の場合には停電する。需要と供給量を一致させるため、大手電力が保有する送配電会社が24時間供給量を調整しているが、中には需要に合わせ調整ができない発電設備がある。 たとえば、太陽光発電設備は日が照ってなければ発電できない。風力発電設備は風が吹いていなければ発電できない。電力の需要は一年を通し、一日を通し変動する。夏と冬には冷暖房需要で需要量が増える。春と秋には需要量は減少する。夏の日には午後冷房需要がピークになる。一方、冬の一日では需要のピークは照明と暖房のため朝と夕方になる。 太陽光、風力発電は需要に合わせて発電できない設備なので、火力発電設備が供給の調整を担うことになるが、春あるいは秋の連休により工場などが停止し電力需要量が少ない時に、好天だと太陽光発電設備からの発電量が需要量を上回ることがある。供給量が需要量を上回っても停電する。 現在、太陽光発電設備の導入量が増えたので、日本のほとんどの地区でこの現象が発生している。供給過剰を回避するため太陽光発電の事業者に対し出力を制御する措置が取られている。太陽光、風力の需要に合わせ発電できない問題を回避するには大型蓄電池を導入し、需要がない時の余った供給量を充電にあて、供給量が少ない時に蓄電池を利用することだ。すでに米カリフォルニア州、豪南オーストラリア州などでは導入が進んでいるが、蓄電池の価格がまだ高いので大規模な実用化はもっと先になる。
発電量を決めるのは利用率
自然条件次第の太陽光、風力発電設備の年間を通した利用率は、地域により異なるが、日本では太陽光発電で15%程度。陸上風力発電設備で20%台、洋上風力で30%台だ。 利用率が異なるので、同じ容量の設備でも同じ期間の発電量は異なる。100万kWの太陽光発電設備を原発1基分とする記事を時々見かけるが、同じ100万kWでも発電量は大きく異なる。100万kWの原発の利用率を80%とすると、年間の発電量は次の計算になる。 100万kW × 24時間/日 × 365日 × 80% = 70億800万kWh 同じ設備容量の利用率15%の太陽光発電の発電量は、13億1400万kWhだ。原発1基分の発電量を太陽光発電設備で得るには5倍の500万kW以上の設備が必要になる。 太陽光発電には利用率が低い問題に加え、設備の設置に大きな土地を必要とする問題もある。たとえば、1万kWの設備には約20ヘクタールの土地が必要だ。東京ドームの面積が約4.7ヘクタールなので、東京ドームにパネルを敷き詰めても、設備容量は2300kWだ。 原子力発電所1基分の発電量を得るためには、約6300ヘクタールという山手線内の2倍弱の面積が必要になる計算だ。2023年12月末時点での、日本全国の10kW以上の業務用太陽光発電設備の導入量は約5800万kWある。それだけで10万ヘクタールを超える土地を利用している。 太陽光発電設備は傾斜地、堤防などにも設置されており、火災あるいは防災上の問題も引き起こしている。地域によって住民による反対運動も活発化しており、設備には日照の良い広い土地が必要なことから、導入数量の増加が、今後政府の想定通り進むか疑問がある。 再生可能エネルギー(再エネ)発電設備の登場により、エジソンの時代にはなかった発電方式も新たに登場しているが、依然として発電の大半を担っているのは、水蒸気を作りタービンを回す方式でエジソンの時代から変わっていない。エネルギー、発電では大きなイノベーションは過去200年間起きなかったと言える。
山本隆三