加藤シゲアキ『なれのはて』直木賞ノミネート会見を【コメントほぼ全文】でレポート!
ルーツの秋田を、戦争を書くということ。その覚悟とは。
ーー戦争の記憶っていうものを、お祖母様が思い出されたりとかは? 加藤:そうですね。身内だからこそ余計に、戦争の話を聞くのは少し心苦しかったんですけど、”後取材”という形で秋田に8月にお邪魔させてもらって、その際に「実はこういう小説を書いたんだ。もしよかったら、その時の話、聞かせてくれないか」とお願いして、祖母から話を聞きました。 で、祖母も実際に土崎空襲を体験していて。その空襲の時に、祖母は10歳だったかで、3歳くらいの妹をおぶって畦道に逃げて、それで空襲が遠くで起きてるのを見たっていう話とか、その他にも、戦争の話を聞きました。やっぱりこういうことを書いて伝えていくことは大事だし、祖母から実際に戦争体験の話を聞けたことだけでも、この作品を書いた意味はあったなと、思いました。 自分で書いた作品ですけど、多くの人の協力や助けがあって成り立った作品なので、そういう意味でも、このタイミングで改めて、祖母含め関わってくださった皆様に本当に感謝しています。 ーー前作までは、学生であったり、アイドルだったり、学園の話だったんですけど、今回は時間も長い期間、そして、エリアも広いところを調べてて、莫大な取材量があったと思います。 で、それも大変だったと思うんですけど、それをまたこの1冊にまとめるご苦労もあったと思うんですけど、そういった点で今回の作品を書かれてみて、いかがでしたか? 加藤:どう大変だったかということですか? そうですね。前作は『オルタネート』という青春小説 で、直木賞候補にしていただきまして。吉川英治文学新人賞をいただきまして、すごく話題にしていただきました。 一方で、いろんな意見をいただきまして、次書くものは、いち読者として、”30代半ばの本が好きな男”として、自分が読んでより楽しめるもの、そして自分が書きたいもの、加えて自分が書かなくてはいけないものがあるんじゃないかっていうのをすごく思いまして。 「次作は、若い読者の方に向けるというよりは、僕個人にまずは向けて書いてるよ」っていうところから意識を持って作品に取りかかったところがあります。 そういった点から、祖母に話を聞いたりとか、自分のルーツをたどるっていう形で、土崎空襲というものを知ったっていうのが大きなきっかけでした。そこからは、確かに実質構想から3年かかりましたし、大変だったこともたくさんあるんですけど、今振り返ってみれば、本当にあっという間だったというか。 何か、この『なれのはて』の発売発表時のコメントでも言ったんですけど、何かこう、”見えない何かに書かされてる”ような、そういう感覚ってのはすごくありましたね。なので、自分でもよくやったなとは思うんですけど、そうですね、本当に自信作でもありますね。 ーーまた今回発売前から重版出来が決まって、売り上げも好調なんですけど。やっぱり、積み重ねてきたものの期待が、 読者にもあると思うんですけど、その辺の受け止めはいかがですか。 加藤: 率直にすごく嬉しいんですけど、前作の青春小説っていうものの方が、もしかしたら 手に取りやすいんじゃないかなとは思っていたんですけど。今回は戦争を扱っているという、すごく辛いシーンもたくさん書いてますし、重く受け止められてしまう分、もしかしたら読者の方の手が伸びないってこともあるかなとは思ったんです。 けれど、実際刊行してみると、本当に、多くの書店さんや、読者の方が口コミですごく話題にしてくださって、この重版に繋がったんだなと思うと、自分がもしかしたら1番この作品を信じてなかったのかもしれませんけど。それでも胸を張って自信作と言えるものを書いたので、正しく伝わってるんだとしたら嬉しいなと、ほっとしてます。