生成AIはヒトの仕事を「奪わない」 弁護士が語る“超少子高齢化”時代の人工知能との共存共栄
AIで「アーティストの創造の幅は広がっていく」
――画像系の生成AIの進化もこのところ、目を見張るものがあるように思います。少し前まではプロンプトを誤読した“奇妙な絵”が出てきて、それを逆にみんなでおもしろがるようなところがあったかと思うのですが……。 羽深弁護士:写実的なものからアニメタッチのものまで、たしかにいまのAIが作り出す画像のクオリティーは、数年前とは比べ物にならないくらい高い。人間が描いたのかAIが描いたのか、言われなければわからないところまできています。それゆえに、制作者のモラルが今後ますます問われていくことになるでしょう。 ――これはアナログの作画が主流だった時代から時折問題視されてきたことでもあるのですが、今後、生成AIを使ったいわゆる「トレパク問題」(従来ある絵をトレースして新しい作品とする悪質なパクリ行為)もさらに増えていくような気がします。 羽深弁護士:そうかもしれません。ただ、気をつけていただきたいのは、他者の絵をそのままトレースするのはもちろんアウトですが、「画風の模倣」は著作権法上は問題ないということです。今後SNSなどで画風の類似まで厳しく指摘されるようになったら、文化全体が萎縮していくおそれがあります。 ――映画や漫画のような、複数のアートの要素が組み合わさった物語表現についてはいかがでしょうか。もちろんそれらをいま、AIのみで作り上げるのは難しいかと思いますが、ここでは、「TEZUKA2020プロジェクト」および「TEZUKA2023プロジェクト」の例を挙げるのが一番わかりやすいかもしれません。同プロジェクトでは、これまで、手塚治虫作品の“新作”という形で、『ぱいどん』、『ブラック・ジャック 機械の心臓-Heartbeat MarkⅡ』という2本の漫画を制作しているのですが、いずれもAIがプロットの構想やキャラクターのデザインなどを担い、じっさいの作画作業は、人間の手でおこなっています。いまではAIで手塚治虫そっくりの絵が作れるにもかかわらず、です。つまり、こうした形の“AIと人間の共同作業”が、今後も漫画や映画、あるいは先ほど話に出た一部の小説のように、エンタメやアートの世界では、ひとつの指針となっていくように思うのですが、いかがでしょうか。 羽深弁護士:同感です。今後ますます生成AIは進化していくことでしょうが、それによって、漫画家や映画監督、小説家たちの仕事が奪われるかと言えば、むろんそんなことはなく、むしろアーティストの創造の幅は広がっていくのではないかと思います。漫画のジャンルで言えば、これまで何人ものアシスタントを使って作画していたような細かい作業をAIがおこなうことで、大幅な効率化をはかれますよね。その間、漫画家さんは新しい作品のアイデアを練るなど、他のことができるようになる。AIは人間にとっての“脅威”などではなく、“優秀なアシスタント”と捉えればよいのではないかと思います。