両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.24
孤独な老人たち
祖国を離れた日系老人の多くは、長い間望郷の念を抱きながら夫婦で慎ましく暮らしてきた。やがて連れ合いに先立たれた後は子供からの連絡も途絶え、異国の地で孤独な生活を送る者が多かった。 そんな老人達のたまり場と化した杖取り堂で、本間は彼らから日本人社会の色々な話を聞いた。老人達は成功した者の話はあまりしない。ほとんどが悪い奴の話だった。 日本から渡米してきたばかりの日本人に近寄り、相談に乗るふりをして財産を巻き上げた男や、日系人強制収容所(戦時中の施設)の中でうまく立ち回って早期に出所し、後から出て来る元仲間を利用し、だまして金儲けをした男など話の種は尽きなかった。 本間は杖取り堂の指圧をしながら、夜はYMCAの道場で合気道を教えていた本間だが、指圧の稼ぎが思いのほか多くなり、半年程経った頃には近くの一軒家に引っ越すことができた。 かれこれ700人以上の老人の身体を揉んだだろうか。杖取り堂を始めて1年ほどが経った頃、本間の身体が悲鳴を上げた。老人の身体を揉んでいた両手親指の付け根が腫れ上がり、痛くて指圧が出来なくなったのだ。そして奥歯もガタガタになった。痩せ細った老人達の身体を両手親指で懸命に揉むと、奥歯を噛み締めながら揉むことになり、結果、奥歯がやられてしまうのだ。 体調不良で、指圧を断る日もあった。断られた老人達は勝手なもので、手のひらを返したように本間の悪口を言い始める。 「あそこは営業許可がない無免許のところで、おまけに本間にはグリーンカードがないから、あそこへ行くと全員逮捕されてイミグレーション(移民局)に連れていかれるぞ」 などと、物騒なウワサが日本人社会に流れ始めた。
Project Logic+山本春樹