【財政破綻国家スリランカを歩く(第6回)】かつて輸出量世界一“セイロン・コーヒー”のルネッサンス
M紅茶農園の歴史は『セイロンのコーヒーと紅茶の物語』
支配人のD氏はアラフォーのタミル人カトリック教徒。この地域はポルトガル植民時代の布教活動によりカトリック教徒が多い。地元の公立学校もカトリック系公立学校である。D氏も三輪車タクシーの運転手もその公立学校出身だ。 D氏によるとM紅茶農園はスコットランド人植民者が1891年にコーヒー農園として創業。コーヒーの木がさび病で壊滅したので1900年から紅茶栽培を開始。周辺で見える限りの丘陵地帯は全てM紅茶農園の所有地だ。輸出用の大きな製茶工場は麓にある。山上の小さな製茶工場は試験用という。緑茶風に製茶したサンプルを頂いたが、ダージリンのファースト・フラッシュ(春先の一番摘み)のような淡い上品な味わいだった。 オーナーは国際的に気候変動の影響でコーヒー豆収穫量が年々減少しているなかでセイロン・コーヒーを復活させようと2020年からコーヒー栽培を開始した。気候的に土壌・雨量、年間気温などコーヒー栽培に適していることは歴史的に証明されているので良質のコーヒー豆が収穫できるとオーナーは確信しているという。 2020年に2800本のコーヒーの木を紅茶の木の間に植樹。コーヒーの木は樹高が高いので紅茶の木への直射日光を遮蔽する効果があるので混在栽培するとのこと。近くでは茶摘み女たちが収穫していた。なるほどコーヒーと紅茶を混在栽培すれば通年で収穫できるというメリットもある。 コーヒーの実はそろそろ赤く熟れてきて収穫が近いようだ。D氏に勧められコーヒーの実を食べるとサクランボのような味と食感だ。残った種を洗って乾燥させたものがコーヒー豆になるという。 1回の収穫量は2500キロ程度。年に1~2回収穫できるという。現在ではまだ試験段階で収穫量が少ないので、コトマレのパイロットファームの工場に送って、コーヒーパウダーにして国内向けに販売しているとのこと。紅茶はMブランドとして長年にわたり日本や欧州に輸出しているのでコーヒーも収穫量が増えてくれば同じ流通ルートで海外にMブランドコーヒーとして輸出する計画とのこと。 スリランカでコーヒーの商業生産が軌道に乗りセイロン・コーヒーが高級ブランドとして世界中に輸出されるようになれば山岳地帯の人びとの生活水準も向上するだろうとコーヒー・ルネッサンスの将来に希望を抱いた。 以上 次回につづく
高野凌