103万円の壁対策で地方の税収減への対応が焦点に
基礎控除額の引き上げ限定で「103万円の壁」対策の弊害を小さくできる
国の税制改正に伴う地方の減収分は、地方交付税特例交付金で手当てしたケースが過去には多いが、これは一時的な措置であり、恒久的な地方の歳入とはならない。地方の歳入不足分は国が剰余金などの活用で穴埋めすることも可能だが、その分国の財政負担は高まる。結局、「103万円の壁」対策に伴う税収減は、自治体が臨時財政対策債発行など借金をしてまかなう、地方の行政サービスが削減される、あるいは国の負担となることが避けられない。 「103万円の壁」対策は必要であるが、議論の過程では、その目的を人手不足の緩和と低所得層の所得環境改善の2つに定めることが重要ではないか。基礎控除額などの引き上げ幅を抑えることや、基礎控除額などの引き上げを低所得者層に限定すれば、その2つの目的を達成しつつ、国、地方の財政負担増加や高額所得層により減税の恩恵が及ぶといった弊害を小さくすることが可能となる。そうした方向で、「年収103万円の壁」の議論が今後進められることを期待したい。 (参考資料) 「103万円の壁「地方減収、国が補填を」 自治体懸念、国民民主が説明」、2024年11月23日、朝日新聞 「年収103万円の壁:「103万円」見直し、住民税除外 与党、所得税と分離案 減収懸念、地方に配慮」、2024年11月23日、毎日新聞 「「103万円」引き上げ合意 「働き控え」解消、企業は歓迎」、2024年11月21日、産経新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英