創業170年、江戸より続く東京・角打ちの名店 四谷「鈴傳で一杯。」
全国各地の厳選された銘酒が集まる老舗酒販店。東京・四谷の地で170年の歴史があるこの店の最大の魅力は、店に併設された「角打ち」だ。なぜ「鈴傳」が愛されるのか、その魅力とは? 【関連画像】創業170年、江戸より続く東京・角打ちの名店 四谷「鈴傳で一杯。」 ■角打ちの聖地・鈴傳が多くの人に愛される理由 JR四ツ谷駅から徒歩5分。酒販店「鈴傳」は創業170年の老舗だ。店主・磯野真也さんが見せてくれたのは、昭和初期の『大日本商工録』のある頁の写し。 「これが鈴傳。四谷が5頁あって、今も残っているのはうちだけです」。磯野さんの祖父で5代目の寅吉さんの名前がそこに記されている。磯野さんで7代目。 元々祖先は滋賀県の湖東・八日市で、大名の右筆(ゆうひつ/秘書)だったという。それが下野国(しもつけのくに)へ転封(てんぽう)となり、酒屋をしていた三男・磯野傳兵衛が江戸のこの地で商売を始めたそうだ。 店名は屋号の「鈴木屋」と初代・傳兵衛からひと文字ずつとって「鈴傳」となった。 鈴傳の地下には洞窟のような貯蔵庫がある。温度ごとに分けられた貯蔵庫は磯野さんの父、元昭さんが考案したもの。ヨーロッパの酒屋を訪れた際、小さな酒屋でも必ず地下にカーブ(=洞窟)があることに驚き、ヒントを得た。 「日本酒もワインと同じ醸造酒だから。そうやって保管したほうが味が落ちないんじゃないかって。当時はそういう風に考える人が誰もいなかったんじゃないかな」 60年代以降の地酒ブームの一端も担った。ただ酔えればいいという酒から、時代の変化に合わせてこだわりの酒を販売するように。元昭さんは率先して各地の酒蔵と取り引きをするようになった。 鈴傳といえば店の隣に設けた立ち飲みスタイルの「角打ち」で知られる。磯野さんの曽祖父の代には、この角打ちがすでにあったようで、座敷や自宅のスペースを開放して、酒を提供していた。 先代が現在のビルに建て替えた際、今の「スタンディングルーム」が誕生。当初は官庁に勤める人や給料が安いサラリーマンが多かった。 わざわざ上京してくる客も少なくなく、全国に根強いファンがいる鈴傳。なかにはお忍びで訪れる著名人や大物政治家もいる。 「長く続けてこられたのもたくさんのお客さんに支えられているからです」と朗らかに笑う磯野さん。スタッフ同士の元気なかけ声がつねに店内に響き、和気あいあいとした雰囲気に包まれる。 鈴傳の魅力はこの“空気感”だろう。初めての客も、酒を一杯空けるか空けないかのうちに自然と打ち解けてしまう。鈴傳が「角打ちの聖地」と呼ばれる理由がここにある。 鈴傳 東京都新宿区四谷1-10 TEL:03-3351-1777 営業時間:17:00~20:45(LO 20:30) 定休日:土日祝 取材・文/沼 由美子 撮影/島崎信一